あのねっと 今号の特集テーマ 絵本のあるくらし  

特集3 アドバイスをよろしく 自分の思い込みに気づくと、子どもとも関係がラクになってくる。
ふじた・あつし
ヨーロッパのおもちゃと絵本の専門店「カルテット」を経営するかたわら、園庭遊具のプランニングや子育て支援・保育園研修の企画なども行う。ネット通販「ネットストア・カルテット」運営。

刈谷市高倉町2-508 サンコービル1F
TEL 0566(28)3933 
http://www.quartett.jp/
絵本は人であり、公園である
絵本は、子育てや子どもの育ちにとって、どのような意味を持っているとお考えですか。
 私は、絵本は人だと思っています。画家がいて作家がいて、ひとつの世界がつくられている絵本にふれることは、まさに人との出会いです。子どもは、いろんな人に接することで育つものですし、親にとっても自分たちの人格だけで子どもを育てるのは荷が重いです。私たち夫婦も、見知らぬこの地で子育てを始めたときに、どれだけ絵本に助けられたことか。たくさんの絵本を読み重ねて育ってきたふたりの子どもたちは、まるで人がそばにいてくれるかのような温かさや楽しさを感じていたと思うし、私にはない豊かさや人格、知識などを身につけている気がします。
 また、絵本のよさは近所の公園と同じかもしれません。いつも同じように待っていてくれて、そこで自由に楽しみ、それぞれの親子が感じるものを感じればいい。そして、公園で遊んでいるときに「今うちの子は砂遊びが好きなんだな」とわかるように、絵本を読んであげていると今のその子の内面が見えてきます。それを受け止めてあげることで、絵本は子どもにとって居心地のいい世界になります。だから、子どもの心の中にできている世界を見せてもらうつもりで、読んであげてほしいですね。
かけがえのない昔話とわらべうた
藤田さんは、わらべうたや昔話の大切さも言われますが、なぜでしょう。
 家族4人で青森に里帰りしたとき、岩手県遠野を訪ね、昔話のかたりべである阿部ヤヱさんという方に出会いました。阿部さんは、当時7歳と2歳だった子どもたちにわらべうたを歌い、昔話を語って遊んでくださったんです。南部弁の阿部さんの語りに2歳の子もグイグイ引き込まれていたことには驚きました。私たち夫婦には子育ての知恵を語ってくださり、それが私の子育てと絵本や遊びに対する考え方の土台になっています。
 いま子育ての中に絵本があるように、500年前からわらべうたと昔話が対になって子どもを育てる役割を担ってきました。わらべうたは、歌というイメージが強いですが、実は遊びであり子育ての神髄です。たとえば「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」は笑ったら負けとなっていますが、本当は目をそらさないことと息を止めることがルール。その遊びを通して、目と目を合わせる、息を止めるという体の力を育てることが目的だったんです。伝承本来のわらべうたは、10歳まで発達に合わせて体系化され、子どもに必要なことを大人が与えていけるようになっています。
 また、昔話では善と悪が明確に描かれ、悪は必ず滅びます。悪は、現実では死なないかもしれないけれど、必ず死ぬんだという希望を芯に持つことで庶民は理不尽な世の中を生き延びていける。ですから、私は講演などで昔話の大切さも伝えているんですよ。
イメージする力が育っていく
親子のかかわりの中で、絵本の魅力をどう生かしていけばいいのでしょう。
 子どもが字を読めるようになると、自分で絵本を読ませようとしたり、字を読ませるために絵本を使う方もいますが、幼児は字が読めてもその世界まではわかりません。また、読めることを大人がほめてしまうと、子どもは読むことで自分が認められると錯覚し、読むことにしか興味がなくなってしまいます。
 でも、絵本を読んで育つのは、字を読む力ではなく「イメージする力」。絵を助けにして言葉をイメージすることにより、世界が広がっていくんです。たとえば、この『しろいうさぎとくろいうさぎ』は、子どもには少し複雑なラブロマンスなんですが、絵が素晴らしい。黒いうさぎの目の奥にある言葉にならない思いが伝わってきて、一生心に残ります。また『おおきなかぶ』では、構図のおもしろさで子どものワクワク感を引き出します。イメージする力が育っていくから、字の多い絵本が読めるようになり、本が好きになっていく。字を読むことよりも、「読みたい」という思いを育てることのほうが大切ではないでしょうか。
 うちの下の子は5年生ですが、ハリー・ポッターを自分で読む一方で、いまだに「読んで、読んで」と言って絵本を持ってきます。子どもの自立心としてある「自分で読みたい」という気持ちを尊重しつつ、年齢に関係なく「一緒に読む。読んであげる」という世界も、車の両輪のように外さないでほしいですね。
集中できる「最初の1冊」を
絵本とのかかわり方について、他にアドバイスがあればお願いします。
 子どもに絵本を読んであげるとき、初めに目標にしてほしいのは、「最初の1冊」となる絵本をつくってあげること。表紙を開いて、ページをめくり、読み終わって閉じるまで、じっとそばで聞ける本ですね。子どもの集中力は、最初は10秒ぐらいから始まるので、途中で飽きてしまう段階はいくらあってもかまいません。どこかの時期に最後まで集中する体験が一度できれば、あとは自然に絵本を楽しめるようになり、集中力が育っていきます。
 また、怖い物語は子どもの側に立って判断する必要があります。たとえば、赤羽末吉さんは、馬の足が切られる場面も傷口はいっさい表現しないなど、残酷な世界を象徴的に描いています。それは絵だから伝えられる方法であり、子どもを安易に傷つけないというプライドを作家は持っているんだと思います。
 絵本には大きな3つの役割があると思います。大人に読んでもらって純粋に絵本を楽しむときと、大きくなって寂しさを癒したり、愛情を確かめるために過去をふり返りたいとき、そして親になって自分が読んでもらった絵本を子どもに読んであげるときです。子どもの想像力は、絵本から感じた世界に生活体験が加わり、だんだん深く大きくなっていきます。子どもの感性が育って自分で絵本を選べるようになるまでは、人間をつくるために、あるいは親子としての価値観の土台をつくるために、大人が選んであげてほしいと思います。
お答えは 長屋佐和子さん
赤ちゃんにはどのような絵本を選べばいいでしょうか?
絵本の最後にある出版社名や発行日などが書かれた「奥付」には、刷数が記されています。この数字が大きいほど読まれている証拠で、特に初めて絵本に出合う赤ちゃんにはおすすめです。私が最初に子どもに読んだ絵本はグレース・カールの『いぬがいっぱい』『ねこがいっぱい』。赤ちゃんの本は、見てほしいものが背景のないところにポンと置かれ、シンプルでリズミカルな言葉がのせられていることが基本です。
子どもに絵本を読んであげるとき、大切なことはなんですか?
書いてあることをそのとおりに読んであげることです。ふだんは子育てにかかわれないお父さんでも、そうするだけで子どもにはかけがえのない時間になり、読んであげることでその子に信頼してもらえるようにもなります。また、読んだあとに「どうだった?」と感想を聞かないこと。なぜなら、言葉で答えようとすることで、膨らんだイメージの世界が壊れてしまうからです。
2歳の子どもが同じ絵本を何度も読んでほしいとせがみます。
たまには他の絵本を読んだほうがいいのでは?
好きな食べ物をまた食べたいと思うのと同じです。また、2歳の子にとっては、スリッパを一列に並べるなど、同じものが同じであること(秩序性)がとても心地よく、それが発達の土台になります。何度も読む中で新たな発見もあります。ですから、まずは「読んで」と言われるだけ読んであげて、十分に満足させてあげてください。
親が読んであげたい絵本と子どもが読んでほしい絵本が違うのですが?
まず子どもの気持ちを受け止めて、読んでほしがる絵本をたっぷり読んであげてから、あなたが読んであげたい絵本を提案してみてください。そうでないと、子どもは大人の言うことを受け入れられません。私も読んであげたい絵本を子どもに拒まれたことがありますが、何年後かに自分から「これ読んで」と引っ張り出してきたことがありました。彼を信じて、本棚に入れておいたこともよかったですね。