本号にも一部掲載されていますが、1月に絵本作家の荒井良二さんにお会いする機会がありました。ライブペインティング終了後、話をしながら道具(と言っても、丸めた新聞紙に柄をつけたもの)を片付けているうちに壊れて、何の拍子にか、その新聞紙で野球やらサッカーやら・・・という成り行きになりました。閉館間際のチャレンジタワーの中で、荒井さんと数人の大人が新聞紙ボールに戯れるという場面に・・・楽しかったー。
そのときチャレンジタワーのスロープを通りかかった数人の子どもたちの“にわか応援団”ができました。「かっ飛ばせーホームラン!」みんなで声援を送ってくれます。ひとしきり遊んだ後、帰っていく子どもたちに、荒井さんの一声「こんな大人に・・(一息の間)なれヨー!」。
愛知県児童総合センターは児童館、つまり子どもたちが身体的にも精神的にも豊かに育ってくれることを応援する機関です。ところが、私たちは、子どもたちがどんな大人に育ってほしいと思っているのか?どんな子が健全で、どんな子が健全でないのか?・・・・明確な答えはなく、いつも自らに問い続けています。
決して、大人が望む子になってほしいわけではない。でも、むやみに自分の立場や欲望だけを主張する大人に育ってほしくはない。
日々、子どもたちと接していると、子どもたちは必ずどの子も、「人」や「もの」や「できごと」と、良い関係を持つことを願っていると感じます。子どもたちが、その場の状況をよく理解して、不安や心配がなくなったとき、子どもたちは、瞳を輝かせて真剣に、人やものやできごとに、自発的に創造的に取り組みます。
私たち大人ができることは、状況をわかりやすく示すこと、「大丈夫だよ」と子どもの不安や心配を取り除くこと、明るく温かいまなざしを向けて子どもたちを見ていること、楽しんで人生を生きる(人やものやできごとと関わる)モデルを示すこと、だと思います。
「こんな大人に・・なれヨー!」。私たち自身が言い、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、近所のおじさんおばさんも、子どもたちに関わる全ての人たちが、こう言いながらその生き方を子どもたちに見せていけるーーそんな応援ができたらと心から願っています。
愛知県児童総合センターの「あそび」には、1996年の開館以来ずっと持ち続けている 5つの“こだわり”があります。
その一つ目は「あたりまえ」がおもしろい!ということ。身の回りのごく普通の「あたりまえ」に存在する、あらゆる「もの」や「こと」を遊びのテーマにしています。遊びに参加することで、今まで「あたりまえ」と思っていた物事に対する視点が変わるきっかけをつくりたいと考えています。
二つ目は、遊びの中で「やった!おもしろかった!という思いや体験」を持ち帰ってほしいですね。上手下手を超えた体験です。例えば粘土で遊ぶときに、自分がつくったものを、知らない人同士がつくったものにつなげていくと、見たこともない魅力的な空間ができあがっていきます。そして最後は、翌日遊びに来る人たちのために、つくったものを全部粘土に還すのです。痕跡を残さない「砂場」の遊びのように、結果よりも遊びの体験の過程が大切だと考えています。
三つ目は、役に立たない、意味がない、こういったムダなことの中にこそ、面白さや大事なことが潜んでいるのではないかということ。例えば、ひたすら穴を掘って最後は何事もなかったかのように埋め戻す、「穴をほる」という遊びを毎年行っています。これは、穴掘りに没頭する体験と五感への満足感が残る遊びです。今、あたりまえと思われている効率や効果という基準を取り払うことが大切だと考えています。
四つ目は、「不自由さ」がたのしい! ということ。のびのびと自由に遊ぶことも大事ですが、遊びに「ワク」を設定することで、これまでは思いもよらなかった新たな視点が生まれ、結果的に枠から出て行く「創造力」が生まれてくると考えています。
五つ目は、「子ども向け」を基準にしない、「子どもだまし」は決してしないということ。子どもが本当に楽しい遊びは大人にとっても楽しいもので、子どもと大人が対等に共感できることが大事だと思います。その遊びが上質で「本物」であれば、同じ遊びで、3歳の子も10歳の子も、30歳、40歳の大人も、その人なりの楽しみ方ができるのです。ただし、遊びの質が大事です。
また、これまで愛知県児童総合センターでは「アート」を遊びのきっかけとして着目してきました。今まで体験したことのないような新しい感覚の世界や、新鮮な視点を目の当たりに見ることができます。正解は一つではなく「人とちがっていいんだよ」と、多様な問題解決の方法も示してくれます。その刺激で次々と遊びに広がりが出て、遊びを生み出すことへとつながります。
まずは、子どもたちと真剣に「遊び」に向きあってください。大人たちの「ヘーッ!」「ホーッ!」「オーッ!」という「息づかい」が、きっと子どもたちに伝わっていくことでしょう。まさに「大人が楽しいと、子どもはうれしい!」なのです。