僕が八ヶ岳に引っ越した一番の理由は、子どもを育てる自信がなかったことです。まだ若造のこれっぽっちの人間が、子どもにどれだけ教えられるのか疑問だったので、僕自身の経験を思い出し、いろんな生きものや自然に育ててもらおうと思ったんですね。
僕は子どものころから虫が大好きで、いろんな虫を捕まえては飼っていました。すぐに死んでしまうのにと大人なら思う虫でも、祖父母や親は、僕が飼いたいものを全部、好きなように飼わせてくれたんです。それは、僕にとってすごくワクワクすることだったし、こうして園芸家への道につながり、生きものの話ができるようになった。僕の手の中で死んだ何百何千という生きものが、僕を育ててくれたんですね。
そんな体験ができるのが里山だとしたら、里山はとても大事な環境なんですが、今はほとんどない。それで八ヶ岳に来たんですが、「里山園芸」を始めて感じたのは、庭やベランダの鉢植えの中にも里山はあるということ。たとえば「なんで今年は虫が多いの?」という疑問から、「これが地球温暖化か」と気づくこともできる。世界がよく見える窓は、小さいけれども足元にこそあり、子育てにつながる大事な初めの一歩もそこにある気がするんですよね。 |