あのねっと 今号の特集テーマ “お父さん”を楽しもう  
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 7歳になる上の娘とは、生まれてしばらくの間は、どうかかわっていいかわからなかったんですよ。言葉は通じないし、男だからおっぱいもあげられない。それに、当時は自宅のほかに仕事場を借りていたので、徹夜が続いて時々しか家に帰れないと、「パパ、次はいつ来てくれるの?」と言われるような状態に。それで危機感を感じ、何とか自分の得意なものづくりで娘とコミュニケーションをとろうと、「リベットくん」などのおもちゃを娘と一緒に作って遊ぶようになったんです。
 下の娘は現在1歳3カ月で、父親としては上の娘のときにはできなかった幼児期の子育てをもう一度やり直したいなと思っているところです。いま彼女はロープやケーブルなどを自分で首にかける遊びが好きなので、ダンボールにひもをつけて首にかけられるタイプのおもちゃを作ったりしています(笑)。
 僕は自分に子どもができて、僕の父が自分にしてくれたように、自分の娘たちにも子ども時代ならではの体験や思い出をつくってあげたいと思うようになりました。僕は愛知県の吉良町出身なんですが、サラリーマンだった父は、一家の大黒柱的な威厳があった一方で、日曜日は朝早くから近くの海や山に連れて行ってくれたり、夜寝る前に自作のお話をしてくれたりしました。そうした思い出が、僕にとっては未だにすごく懐かしい宝物のような記憶になっている。いま僕が娘たちにやっていることも、父の影響がすごく大きいんです。なので父は子育てをうまくやったなという気がします(笑)。
 父親は、どうしても子どもとかかわる時間が母親よりもずっと短くなってしまうので、そのなかで父親の存在感をどれだけ示すかが大事ですよね。僕は、わが家では遊び担当ですが、母親とは違う第三者的な立場で、少し離れた視点で娘の成長や母と子の関係を見ている部分もあります。ちょっとずるいけれども、時々スーパーマンのように現れて問題を解決して去っていく、ということができるのが父親という立場のいいところなんじゃないかと思っています。
 僕は、子どものころに母から突然「今日からおもちゃは買いません。自分で作りなさい」と言われて以来、自分で木や竹を切っておもちゃを作ったり、ノートのすみに絵を描いてパラパラマンガを作ったりして遊んでいました。でも今の子どもたちは、DVDをセットしてスイッチを入れれば映画やゲームが楽しめるし、ケータイでコミュニケーションがとれる。大人は便利なツールとして使っているけれども、子どものころからそれでいいのか疑問に思いはじめました。
 生活が便利になった分、人と人とのふれあいや、体を動かして何かを触ったり作ったりする楽しさを忘れてしまいがちなので、それを取り戻すきっかけを意識的につくる必要があると思います。だから、手作りおもちゃも、お父さんが裏で一生懸命に作って子どもに渡すのではなく、子どもと一緒に考えて作ることが大事なんですね。
 作る行為やプロセスすべてが楽しいし、子どもはすごいセンスを発揮して親に喜びを与えてくれる。そして、作ったものを使ってどんどん遊びを広げていける。そういう魔法のような時間が生まれるからこそ、たとえ材料が段ボールの切れ端であっても、買ってきたおもちゃに負けないんですよね。
 僕が「リベットくん」や「どっちがへん?」のワークショップをするのは、僕が娘と体感している楽しさを他の親子のみなさんにも知ってもらいたいから。この前、名古屋で開催したワークショップ(※)では、子どもの発想に親たちが感動する奇跡のような場面がいくつもあったし、子どもたち自身の心にもスペシャルな1日として残ってくれたんじゃないかと思いますね。
 僕がおもちゃを作るようになって気づいたのは、一方的に親として子どもに何かしてあげたいと思うだけでなく、自分が楽しくなければいけないということ。子どもにとっては遊びが仕事のようなものだし、毎日のことだから、そこに終わりはありません。親は子どもからくる要求に次々と応え続けていく必要があるわけで、自分も楽しまないととても続きません。僕はそこに喜びを見いだしたから、仕事がいくら忙しくても、子どもと遊ぶ時間が作れるし、それが逆に僕の心の平穏を取り戻す時間になっているんですよね。
 それに、僕はいつの間にか、楽しんで始めたはずの自分の仕事がちょっと苦しくなってきていたんですが、子どもと向き合うようになって、ものを作ったり考えたりするおもしろさを改めて実感できるようになりました。
 ワークショップでは、たとえば「どっちがへん?」と問いかけることで、子どもたちは一気に乗ってきます。実は、僕がメディアアーティストとしてつくってきた参加型の作品も同じ発想なんですよね。そうした遊びのフォーマットが、鬼ごっこや隠れんぼみたいに、僕の存在に関係なく時代を超えて受け継がれていったら最高ですね。
 今は子どもとアナログな遊びを中心にやっていますが、常に子どもはデジタルなゲームなどにもすごく興味を持っています。僕はそれを排除するんではなく、アナログとデジタルをつなぐような、たとえばアニメーションのしくみを体験するような遊びなどをしたうえで、自然に子どもがデジタルの世界も理解できるような遊びが作れないかと夢見ているんですよ。
 それぞれの家庭によって状況は違うので、一概に「お父さんも、もっと子育てすれば」とは言えません。でも、いつの間にか子どもが大人になり、気づいたらあまり子どもと遊んだことも話したこともなかった、なんていうのは寂しい。お父さん自身も、子どもと遊ぶとすごく活力がもらえるはずです。お父さんが自分の得意なところを生かしながら、子どもや家族全員と楽しい時間が持てたらいいですね。(1月16日取材)
※「あのねっとFLASH」ページをご参照ください。
●いわい・としお
1962年、愛知県生まれ。メディアアーティストとして国内外の美術展に観客参加型の作品を発表するほか、テレビ番組『ウゴウゴルーガ』、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示『トトロぴょんぴょん』、ニンテンドーDSのアートソフト『エレクトロプランクトン』なども手がける。2007年、NHK教育の幼児番組『いないいないばぁっ!』でリベットくんを使ったオープニングアニメーションを担当。2007年織部賞受賞。著書は『いわいさんちへようこそ!』(紀伊國屋書店)など。