あのねっと今号の特集テーマ 「ほめる」子育て 
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かんだ・ひでお
専門分野は発達心理学。保護者・保育者を対象とした講演活動も行う。著書は「3歳から6歳〜保育・子育てと発達研究をむすぶ幼児編〜」(ちいさいなかま社)など。
「ほめ言葉」にこだわらないで
「ほめる子育て」について、最近の親たちはどのように考え、子育てしているのでしょうか。
 子育てに一生懸命になるあまり、ほめることにこだわり過ぎることがあるのではないかと思います。ほめ過ぎると、親に気に入られるためにやる子に育ってしまう危険性もあります。たとえば「速く走れたね」とほめたとします。最初、子どもは走ることの喜びで走っていたのに、ほめられることによって、走りたい喜びがほめられたい喜びに変質してしまう。活動自体の喜びを忘れて、大人の顔色から喜びを感じてしまうことがないようにしたいですね。また、ほめることも子どもを評価していることにかわりはない、ということにも配慮したいです。大人に対して不信感を持っている子どもの場合、ほめ言葉をかけ過ぎることによって、「いつもオレを監視するな」と反発することがあります。
 「認められた」という気持ちを育て、子どもに自信を持たせることはとても大事です。だけれど、それはすなわちほめ言葉を使うこととは限らない、と考えたいと思います。
評価ではなく「叙述」する言葉を
では、子どもに自信を持たせるには、どのようにかかわればいいとお考えですか。
 「自分の心をわかってもらえた」と子どもが感じることが大事です。自分が理解されていると感じたとき、子どもは自分のあり方が肯定されたと感じて自信を持てるからです。
 そもそも人間の心は外側の世界を写すものですから、外側の世界を言葉にすれば(叙述すれば)、心の中を叙述したのと同じことになります。子どもを見つめるのではなくて、子どもが見ている物を見て、それを叙述していくわけです。たとえば、子どもが砂場でおにぎりをつくり、「おにぎりできた!」と持ってきたとします。そのときに「わあ、三角のおにぎりだね!」などと言ってあげれば、子どもは「そうそう、三角形にすることこそ、ワタシが努力したことなんだ」と、自分をわかってもらえた喜びを感じるはずです。
 子どもの視線の先にあるものを一緒に見たり、興味のあることを一緒に楽しんで、そして評価ではなく叙述する言葉を使ってみてほしい。そうすれば子どもは安定するし、遊びも広がっていくと思います。また、表情を読みとり判断する力は0歳から育っていくので、言葉が十分に理解できない年齢でも、にこやかな表情を向けるだけで、子どもは自分を認めてくれていると感じ、安定した心の子どもに育ちます。
しかり過ぎないためには…
親にとって「ほめる子育て」はなぜ難しいのでしょうか。
 親は子どもに責任を持っているので、しかり過ぎてしまうことがあります。わが子の優しさを十分に知っていても、優しさだけでは大人になって生きてはいけないと思うから、「言いたいことをはっきり言いなさい!」としかってしまう。そういうのは自然な親の気持ちですし、親として責任を持っている姿勢の表れでもあると思います。でも、しかられてばかりではかわいそうですよね。
 おじいちゃん・おばあちゃんのように少し距離のある人に、ある程度はゆだねることも必要ではないでしょうか。親にはしかられたけれども、自分の優しさを認め続けてくれる人がいる。立場の違う人の中で育つことで、自分に自信を失わず、でも改めるべきことにも気づいていくことができるのだと思います。
 しかるときには、子ども自身に自分の行動の結果から学ばせる方法も併用するといいと思います。たとえば、子どもが壊したおもちゃを見せ、「これ、どうなってる?」「なんで動かないのかなあ?」と問いかけていっしょに事実を確認することによって、子どもには「しまった」という気持ちがわいてきます。親にしかられたからではなくて、事実に教えられて、二度としたくないという気持ちが引き出されるでしょう。
子どもの発達を見通しながら
ゆとりを持って子どもを見るために、子どもの発達段階をふまえた接し方・ほめ方について教えてください。
 1歳半ごろから自己意識や自立心が出てきます。そのため「自分がする」「見てて」と主張するようになります。この時期は、自分でやりたい気持ちと、だけど自分ひとりになってしまうのは不安だという気持ちが同居しています。ですから、親は手を出すことを控えつつ、でもそばにいて見守っていることを知らせることが大切です。
 友だちとの関係では、おもちゃを「貸して」と言われるのも、自分に侵入されたと感じるので、貸し借りのトラブルが起こりやすい時期です。「終わったら貸してね」というような頼み方をすれば、「あなたを尊重しているよ」という気持ちが伝わるので、トラブルを未然に防ぐこともできます。
 自己意識が順調に育つと、4歳の誕生日を迎えるころに「自分は大人にも負けないくらい何でもできる」という自信満々の時期が訪れます。だから「テツダッテアゲル」などと、恩着せがましい言葉も出てきます。実際にはできないのですが、「あなたは本当に役立つわ」と言って根拠のない自信を根っこの部分で持たせて安定させたい時期です。
 5歳ごろから自分をふり返り始めるので、根拠のない自信満々は影を潜め、自分をふり返って客観的な評価をするようになります。しかし、はじめは「いい子か悪い子か」「上手か下手か」という両極端の自己評価しかできないので、たとえば絵が下手だと思っている子には、「(あなたは自分の絵を隠すけれど)目は本物みたいに描けてるね」というように、部分的な見方や多面的な評価もありうることを知らせていくと、子どもは精神的なゆとりを持つことができます。
 そうして幼児期の末から小学校低学年の間に多面的な価値観が育っていきます。しかし、まだまだ自分の判断は生まれたばかり。小学校低学年ぐらいまでは、子どもの判断を大人が共感して支持を与えたいですね。そうすることによって、子どもは「自分で判断すること」や「自分で考えること」に自信を持てるようになるでしょう。
 子育ては、その場その場で最善を尽くした結果。どんな育て方をしても後悔すると思うので、親とは「後悔する人間」と思っていたほうがいいかもしれませんね(笑)。
小1の息子のできないところばかりが目立って、注意をしてしまうのですが?
親から見ると、できるはずのことができないと思えて、しかってしまうんですよね。「いつも忘れ物をしているのに、どうして夜のうちに明日の準備をやらないの?」などというように。でも、小学校低学年は一人前のことを言うけど行動するときには配慮が足りないという、言葉と能力との間にギャップがある時期です。だから、そういう時期だと考え、同じ失敗をしても冷静に受け止めて、「その都度、指摘してやろう」というくらいの気持ちでいたほうがいいのでは。4年生ごろになれば段取り能力がついてくるので、しかるのではなくて話せば理解できる子になってくると思います。
魔の2歳児に突入し、しかることが多くなりました。
しからず、ほめることで説得できるようになりたいのですが?
2歳児には、自分を尊重してほしいという思いがあるので、自分が「〜して」と言ったときに親が「今はだめ」と答えると、自分が尊重されていないと感じてだだをこねます。親は、わがままな子にさせたくないと思ってさらにしかる、という悪循環になってしまいます。そこで、たとえば洗い物をしているときに「遊んで」と言ってきたら、いったんは「わかった。遊ぼうね」と答えて、尊重していることを伝えるのがコツです。そうすると子どもは「自分の希望が理解された」と感じて余裕が生まれるので、続いて親が「じゃあ、大急ぎで洗い物しちゃうからね」と言うと、「積み木やって待ってる」というふうに自分で自分の気持ちを切り替えることができます。
兄弟がいる場合、1人の子をほめると他の子がねたむことがあるのですが、
どう対処したらいいでしょうか?
2人兄弟なら、ほめるときもしかるときも必ず2人ともに声をかけるといいと思います。たとえば「◯◯ちゃん、こんなことしてくれてありがとう」と言ったあとに、「そういえばお兄ちゃんも、前にこんなことしてくれたよね」といったように。親の評価を気にせずに、やりたいことを見つけていけるのが一番ですが、特にほめてあげたいときは両方をほめるようにしてはどうでしょうか。