あのねっと今号の特集テーマ 「ほめる」子育て 
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 私はいま3歳の息子と仙台で暮らしています。仙台には両親が住んでいますし、おじ・おば・いとこ、そして子どもにとってのひいおばあちゃんまでいるんですね。なるべくにぎやかな環境で、いろんな大人を見て育つことが大事だろうという思いもあり、東京から移って来ました。お互いによく行き来をしていて、助けられています。
 他の人の目があると、自分ではすごく気にしていることも、何でもないと気づかされますね。また、20代のいとこは体を使った遊びをしてくれたり、『ゆうれいホテル』というグロテスクな仕掛け絵本を買ってきて、子どもを夢中にさせてくれたりと、私とはまったく違う接し方をしてくれるんですよ。
 テレビは受け身になりがちなので、子どもに見せたくなくて、こちらに来てしばらくはテレビのない生活でした。でも、さすがに必要があったので、ひいおばあちゃんのお古をもらったんですが、それが「これ何時代の?」という骨董品。畳の部屋の隅に置いてあるんですが、子どももそのテレビは感じが悪いらしくて、よほど見たいときしかつけない。思い切って環境を変えたら、以前のようにダラダラ見ることもなくなり、私も口うるさく言わなくなりましたね。
 私は言葉がとても好きなので、赤ん坊が言葉を獲得していく過程は本当に興味深い。息子の最初の言葉は「パン」で、ちょっと期待はずれだったけれど、あるとき電気がつくように言ったんです。朝の散歩から帰ると、私は何気なく「パン食べよう」と言っていたんですが、いつも子どもの耳から入っていた「パン」という音が、目の前の食べ物と結びつく瞬間は、ドキドキする出来事でした。
 話しかけるときは「川が見えるねえ」とか「暖かくなってきたね」と対等な言葉づかいをしていますが、赤ちゃん言葉も使っていましたよ。まだ舌がうまく回らないときは、正しく話すことより話せる喜びを知ることのほうが先だし、大人になっても「ブーブ」と言っている人はいないので大丈夫だろうと。最近は不思議な理屈を言うこともあります。私が「おやつは3時だからこの針が3のところに来たらね」と言うと、「もう気持ちは3時なの」って(笑)。
 子どもは日々成長し、驚きも発見も感動もすぐ当たり前になって次の波が来るので、その場で書き留めるようにしています。短歌は、何時間も机に向かわないと書けないものではないので、そういう意味ではよかったなと思いますね。
 子どもに言い聞かせるときには、きちんと説明するようにしています。言っているうちに理屈もわかるようになる気がするし、「一人前に扱ってくれているな」と感じることが大事だと思いますね。育児書を読んでなるほどと思ったのは、「あなたはいい子ね」というように人格に対してほめたりしかったりするのではなく、「お友だちに貸してあげたのはいいことね」というように行為に対して言うということ。
 ただ、それも四角四面に考えると息苦しくなるし、父にも「人格が傷つけられたと感じるかどうかは、親子のかかわり方やしかり方で伝わるんじゃないか」と言われて、それもそうだなと。だから、命にかかわるときはすごい剣幕で「ダメ!」と言えば伝わるだろうし、思わずほめてしまうときは「いい子ね」でもいいような気がする。私は言葉をいちばん信頼してはいるけれども、言葉以外で伝わるものもけっこうあると思います。
 感情的に怒って反省することも多いですけれど、本気だから腹が立つわけなので、ある程度はしょうがないのかな。でも、自分が悪いなと思ったら謝るようにしています。思わぬところで傷つけてしまわないように、親は圧倒的に強い立場というか、世界にひとり頼られている存在であることを自覚する必要はあると思いますね。
 最近は母乳で育てることのよさが強調されていますが、私はあまり出なくて4カ月ぐらいでミルクに切り替えました。一時は母乳外来にも通いましたし、いろんな情報をくれる人もいたんですが、「もう卒業したい。ビールも飲みたいし」という気持ちになって(笑)。情報がすぐ手に入る便利な世の中ですが、ストレスを感じてしまうこともある。それは本末転倒のような気がします。
 出産後に詠んだ短歌に「自分の時間ほしくないかと問われれば自分の時間をこの子と過ごす」というのがあります。私は、自分が選んでこの楽しい生きものと一緒に過ごしているのに、そんな質問、大きなお世話だわと思って(笑)。仕事や自分の時間を持つことが自己実現のように言われますが、子育てもまたすごい自己実現だと思います。私が原稿を書かなくても誰かが埋めてくれるけれど、子どもにとっての私は代わりがないですからね。そう思うと過ごし方も変わるし、そうありたいという願望を込めた歌でもあります。
●たわら・まち
1962年大阪府生まれ。早稲田大学卒。1987年刊行の歌集『サラダ記念日』がベストセラーとなり、以後、幅広い執筆活動を行う。歌集『チョコレート革命』、小説『トリアングル』など著書多数。2003年に出産し、シングルマザーに。わが子の成長を詠んだ短歌が数多く収められた『プーさんの鼻』(文藝春秋・2005年)で第11回若山牧水賞受賞。