ケース3
駐車マナーなどをはじめ、自己中心的な行動をする親がよく見受けられる。モラルやマナーを教える親自身がこういう状態では、子どものしつけに支障が出てくるのでは?
大人のマナーの方が問題!?
編集部  ケース3は親自身のモラルやマナーについてですが、どう思われますか?

服部さん  横断歩道で子どもと信号待ちをしているときに、ほかの大人が赤信号でも渡ってしまうことがありますよね。せっかく子どもに交通 ルールを教えても、そういう場面に出くわすと、「大人はいいの?」と子どもは思ってしまいます。

吉田さん  幼稚園の説明会でのことなんですが、園長先生の話が聞こえないくらいお母さんたちがおしゃべりしているんです。学級崩壊と言われていますが、そういう大人の姿を見たら、人の話なんて聞かなくてもいいと子どもが思っても不思議じゃないなという気がします。
 また、道でタバコの吸いがらを捨てる人がいると、うちの子は「あー、タバコ捨てた!」と声に出すんです。いけないことはいけないと言うべきなんですが、恐ろしい事件も起きていますし、その人がどういう人かわかりませんので、対応の仕方に悩みます。

伊藤さん  私も、割り込んできたおばさんにすごく腹が立っているのに、ダメと言えないと、そういう私の姿が子どもにどう影響するか、心配になることがあります。

加藤さん  子どものしつけがテーマなんですが、それは結局、大人である自分がどう生きるかの問題なんだと思います。

中野先生  大人のマナーの良し悪しは、子どもの頃にきちんとしつけられたかどうかの結果なんでしょうね。地域の教育力がなくなり、互いに関心を持たなくなったことも原因のひとつだと思います。ルールやマナーの守れない社会になっては困りますから、人に注意することまでは求めないまでも、子どもにはやはり小さい頃から悪いことは悪いと繰り返し話すことですね。そうすることで将来、マナーやルールを守らない大人は減っていくのではないでしょうか。

叱るだけでなく、ほめることも大事。
編集部  最後に、ほかにアドバイスなどがありましたらお願いします。

中野先生  親は子どもに言っていることと反対の気持ちを持っている場合があります。たとえば、子どもに「自分の好きな物を選んで来なさい」と言いながら、子どもが買ってくると「何、この色!」(笑)。親にそういう態度をとられると、子どもは傷つきますし、「お母さんの本音はこっちだな」と思ってしまいます。
 あるいは、徒競走で1番になった子どもが喜んでお母さんに報告にしたら、お母さんは「よかったねえ」のあとに、「今度は算数がんばろうね」。そう言われると、運動で頑張ったことはそれほどいいことではないのかなと思ってしまう。もし算数を頑張ってほしいなら、算数のテストが悪かったときに言えばいいんです。また「テストの点が悪いときにくどくど叱るお母さんに言いたいこと」として、「いいときにはもっと喜んでほしい」と訴える子どももいます。いいことをしたときには、ちゃんとほめてあげたいですね。
 いま家庭の教育力が低下していると言われていますが、私はそうは思いません。子どもの数が少ない分、むしろ関わりは多く、それだけに行き届きすぎてしまっている。そのために、子どもは親の期待を敏感に感じて、家では良い子を演じ、学校でストレスを発散するようになってしまうんですね。
 親は子どもにとってモデルなんですが、完璧でなくていいんです。完璧だと子どもは窮屈に感じますし、多少、裏表があっても、その中から子どもは学んでいきます。親としては、子育て以外のことにも目を向けて、自分の世界を広げることで子どもの世界も広がる、というくらいの気持ちでいいのではないでしょうか。
 親子のコミュニケーションについて言えば、子どもがしゃべりたいことを聞いてあげる余裕を親は持っていたいですね。子どもはその場で聞いてほしいと思っているので、短い時間でも聞いてあげること。会話の量ではなく、話したら聞いてもらえるという信頼関係をつくることが大事だと思います。また4年生ぐらいになると、家庭でも勉強についての話題が多くなる傾向があります。親としてはできるだけ早く準備をしてあげたいと思ってのことでしょうが、学校でも家でも勉強の話ばかりでは、子どもは気が休まりませんから、できるだけ話題を変えた方がいいでしょうね。

(実施日/2001年11月17日)