ケース1
「わが家のしつけ」を大切にして厳しくしつけることもあるが、周りを見るとそうでもなく、子どもは不満そう。各家庭によってしつけは異なるし、何をどのくらいしつければいいの?
「わが家のしつけ」をどこまで通す?
編集部  はじめに皆さんのお子さんの学年・年齢をご紹介いただき、続いてケース1についてのお考えをうかがいたいと思います。

加藤さん  小学5年生と3年生の子がいます。子どもが小さいときは「今のうちにしつけなければ」と肩に力が入って、厳しくしていましたが、もっと自然でよかったのではないかと今は思っています。というのは、子どもに「片づけなさい」と注意しながら、私自身がいまだに部屋の片づけが苦手で(笑)、自分ができないことは子どもができなくても仕方がないなと思うようになりましたので。

伊藤さん  子どもは小学4年生と1年生です。私は、わが家流のしつけに自信を持てるといいなと思っているんですが、世間の目を気にするとわが家流が揺らいでしまい、自信を持てない苦しさを感じたことがあります。それは、私自身が「出る杭は打たれる」とか「みんな仲良くするべき」という価値観の中で育ってきたことも、原因のひとつかなと思ったりしています。

吉田さん  5歳の子がひとりいます。しつけのことでずっと気になっているのは、子どもが2歳のときにほかの親子と一緒にやった餅つきでのことなんです。子どもたちが犬を触った手でお餅をさわろうとしたので、私は「みんなで手を洗いに行こうよ」と言ったんですが、その場の雰囲気もあって洗いに行かなかったんです。でも私は、自分の子には「みんなが食べるものだから」と言い聞かせて、手を洗いに連れて行ったんですが、戻ってきたら餅つきは終わっていて……。子どもは「ボクもやりたかった」と言って泣いてしまって、かわいそうなことをしたかなとずっと思っています。

服部さん

 私は3人の子どもがいて、小学3年生・1年生・2歳です。吉田さんのお話についてですが、集団の中ではとまどうこともありますが、その場合は手を洗うのがふつうだと思うので、吉田さんの対応は間違っていないと思いますよ。


加藤さん  それに、そこで手を洗わせずに、汚いなと思いながらやらせると親のストレスになると思うし、子どもが泣いたとしてもその日の出来事はひとつの経験じゃないでしょうか。

吉田さん  そう言ってもらえて、すっきりしました。

全員  (笑)

家と外とでは違いがあることを教えながら。
中野先生  吉田さんがおっしゃったような体験はよく起こりますよね。そういう場合、家と外とのギャップに子どもはいっとき悩むものですが、そういう体験を繰り返しながら乗り越えていくのではないでしょうか。家庭の中でも外でも「手を洗いなさい」と親が一貫して言うことで、子どもは自分なりの価値観をつくっていくんだと思います。
 みんなの中で育つわけですから、確かにわが家流のしつけを通すのは難しい部分がありますね。しつけというのは、外に出て人に迷惑をかけないように、あるいは人前で恥をかかないように、最低限、身につけておくものだと思います。ですから、親がわが家流を増やしてそれにこだわりすぎてしまうと、それが外では通用しないこともあり、苦しくなるんでしょうね。

伊藤さん  親の言うことと周りの人が言うことの違いを子どもが感じ、親も「わが家はこれでいいかしら」と両方が立ち止まったときが、成長するチャンスかもしれませんね。

中野先生  そうですね。わが家のやり方が社会で通用しないことは、この先いくらでも出てくるわけですから、「家ではこうだけど外では違う場合もあるよ」と説明することは必要ですね。

編集部  しつけをしているうちに、ある部分にとりわけ厳しくなってしまい、虐待かと思われるケースも起きているようですが、中野先生、その点についてはいかがでしょうか。

中野先生  よその子はできるのに、自分の子ができなかったりすると、厳しく叱ってしまうことがあります。子どもはそれにプレッシャーを感じた場合、叱られても目をそむけたりします。そうすると親は、この子は言うことを聞いてないなと思い、「どうしてお母さんの顔を見ないの」とさらに叱る。そうやって親の方が余裕をなくしていくんですね。
 そんなとき、ご主人や友だちなど、止めてくれる人や相談できる人がいればいいんですが、孤立しているとエスカレートしてしまうわけです。そういう意味では、誰かに話を聞いてもらったり、何か趣味を持ったりして、頭を切り替えることが大事ですね。

伊藤さん  感情的に怒っていると、だんだん自分が何を怒っているのかわからなくなり、子どもが泣いてやっと冷静になることがあります。

中野先生  県の教育委員会が出した『一言集』という本にこんなことが載っていました。お母さんが「自分さえよければいいというのではなく、ほかの人の立場に立って考え、行動してほしい」と子どもに言ったら、子どもは「お母さん、自分の機嫌でボクたちを叱らないでほしい」と言い返したと(笑)。

伊藤さん  子どもの方が上を行っていますね。