好き嫌いは長い目で見て。
 
 午前11時、給食が始まる1歳児クラスにおじゃましてみた。
 10人の子どもたちの前で、保育士さんが一人分ずつ小皿におかずを取り分け、木のおひつからごはんをよそってテーブルに並べる。おひつを使うのは、ごはんの水分がほどよく吸収され、時間がたってもおいしさを保てるためだ。
「では、いただきま〜す」
 保育士さんのあいさつに促され、子どもたちはさっそく味噌汁の豆腐をスプーンで口に入れたり、サバを手でつかんで食べたり。しばらく様子を見ていると、ごはんばかり食べる子もいればおかずが好きな子もいる。1歳児の食べ方について北方さんは「いろんなものを交互に食べられるようになるのは、もっと大きくなってからですね」。
 汁物は子どもたちの好物で、足りなくなることもあるそうだが、子どもが好き嫌いをすることについてはどう考えているのだろう。
 「好き嫌いは誰でもあるし、嫌いなものも何年かかけて食べられるようになればいいと思っています。甘いかもしれませんが、イヤな思いをして食べた経験はさせたくないので、ムリヤリ食べさせることはしません。今日の切り干し大根も苦手なものの一つで、残るとわかって作っていいのかという迷いはありますが、その味を知ってほしいので、もっと食べやすくならないかと試行錯誤をくり返しています」。
 嫌いな食べ物の無理強いはしないが、言葉がけなどで食べさせる努力はしている。1、2歳児には、子どもが持つスプーンに保育士が少しおかずをのせ、「食べてみようか」と励まして口に運ばせたり、4、5歳児には「青菜を食べないと、体にビタミンAがなくなってカゼをひいちゃうよ」と説明して食べる気にさせたり。また、好きなものを食べて満足すると気持ちにゆとりができ、嫌いなものも食べる場合があるという。
手もスプーンも使う1歳児クラス

今日のメニューはゆかりごはん・サバの味噌味・切り干し大根ごま酢あえ・味噌汁。             
ハシを操る2歳児クラス

にぎやかな3歳児クラス
 となりの2歳児クラスでは9月からハシを使って食べている。食べ物をハシで追っても逃げないように、底が鍋のようになった器を使っている。このクラスでは、子どもの食欲を大事にしつつ社会的マナーを教えることを心がけ、手づかみする子には「ハシで食べようね」と促す。保育士も一緒に食べて見せ、よく味わって食べることを学ばせる。
 ほとんどの子が4歳になったという3歳児クラスの食事は、おしゃべりが盛んでよく食べる。ハシを持ったまま身ぶり手ぶりをする子もいて、思わず北方さんがそばに行き「目に入ったらどうなる?」と注意する。「食事は黙ってするもの」という考えもあるが、北方さんは「しゃべりたい気持ちが強いので『黙って食べなさい』というのは酷ですね。でも抑えが効かず怒鳴り声になってしまうので『やさしい声でしゃべってね』と言っています」。