あのねっと 今号の特集テーマ 子育て、親育ち  

特集3 お互いの違いを認めながら、親と子の今の関係を楽しみたい。
ゆき・じゅんこ
専門分野は臨床心理学で、研究テーマは「地域保育への臨床心理学的援助」。子育て支援を行うNPOなどの活動に参加し、多くの親子とかかわる。 
子どもの変化にとまどう
成長していく子どもに対して、親はどのようにかかわっていいのか、不安になるときがあると思うのですが。
 子どもとのかかわりで親がとまどうのは、今まで自分が把握していた子どもの姿と違うものが見えてきたときかもしれませんね。たとえば、自我が芽生えてきて「いや」を連発したり、自己主張するようになったときに、「親の言うことを聞かなくなった」とか「悪い子になってしまったのではないか」と心配になることがあります。
 自己主張するようになることは当たり前の成長過程ですし、そもそも子どもは親とは別の人格ですから、思いどおりにはならないものですよね。でも、どうしても親は、子どもを「自分の一部」や「小さな自分」のように思っていたり、自分の思いどおりにできると思いがちです。そういう感覚を持ってしまうのは、現代の親子が密着していることに加え、「子どもをつくる」という言い方が象徴しているように、出産する時点から親の意のままになると思いやすい状況もあるからなんですね。
 そうした現代の親子関係の中で、成長し変化していく子どもとコミュニケーションをとるには、親と子は違う人間だから、わからなくて当たり前ということを、改めて意識してみるといいと思います。そうすれば気持ちがラクになりますし、子どもの成長を頼もしく感じられるのではないでしょうか。また、いろんな親子とかかわることで、親も子もいろいろあっていいと実感できるかもしれませんね。
先輩ママが伝えていこう
今は親が子どものことで必要以上に悩んでしまう傾向がある一方で、「危険な場所で、幼い子どもと手をつながない親がいて心配」という声も聞かれます。
 必要以上に悩んでしまうことも、子どものことに気づかず無頓着に見えることも「子どものことがわからない」という意味で根っこは同じだと思います。
 危険な場所なのに子どもと手をつながない親を見たら、普通は無責任と思うかもしれませんね。けれども、そうした親の行動の背景には、手をつながないと危ないということを親が理解できていない可能性があります。つまり、大人の心と子どもの心は違うということがわかっていなくて、自分と同じように子どもも危ないことを知っているはず、と思い込んでいるのではないでしょうか。
 うちの大学の学生を見ていても同じことを感じます。たとえば、学生が初めて保育実習に行くと、難しい言葉を使ってしまって子どもに通じないという経験をするんですが、それは子どもの立場でものを考えていないからなんですね。
 兄弟が多かった時代には、上の子が下の子を世話しながら子どもの育ちを体験的に理解し、親になったときに、危なかったらパッと手を握るなど、体が自然に反応していたのかもしれません。でも、今はそういう時代ではないですし、できなくて当たり前ですから、体験できない代わりに知識として伝える必要があります。同じ立場の先輩のお母さんから若いお母さんへと、伝えていけたらいいですね。そうして知識を伝え聞きながら、親としての体験が積み上がっていくのではないでしょうか。
子どもに何を教え伝える?
親の社会的な役割について、どのようにお考えでしょうか。
 これは「教育とは何か?」という問題だとも言えますね。親の役割や教育と言っても、何をしていいのかよくわからなくなっている状況があるかもしれません。昔は、家業を手伝いながら働くことも家庭で学びましたし、人として生きるとはどういうことかを地域社会の中で教えていましたが、今はそういう機能がなくなっています。
 現実生活では、大人は目前の子どもの姿にとらわれて、どうしたらいいかと悩むんですが、一番大切なのは、長い目で見て子どもがどれだけ自分の人生をしっかりと生きてくれるかということです。「自分もまんざらでもない」「生きていてよかった」と子どもが思ってくれれば、それが親としても一番うれしいわけですよね。子どもがそういうふうに成長していくためには何が必要なのか、大人が子どもに教え伝えるべきことは何なのか、大人全体が自分の責任として考えたいですよね。
 子どもも人として何が大切かを面と向かって言われると受け止めにくいときがありますし、直接言葉で伝えられなくても子どもは大人のふだんの言動から学んでいる気がします。大人同士の会話や他の人が言われていることを、よく聞いていたりしますよね。また、すぐに行動が変わらなくても、伝えることに意味があると思います。聞いたことが心の中に残っていたり、あとになって「あのとき言っていたのはこのことかな」と気づくこともありますからね。要は、大人自身がしっかり生きること自体が子どもにも影響を与えるということだと思います。
今を大切に、自分に正直に
子どもの将来を常に心配することは、本当に子どものためになるのでしょうか?親自身も子どもの成長後の自分に不安を感じてしまうようですが…。
 大人は、子どもの先々のことを考えて、今のうちからこうしようと線路を敷いてしまいがちです。けれども、先はどうなるかわかりませんし、子ども自身も未来を考えて生きているわけではありません。ですから、子どもがいま体験していることや思っていることを受け止めたり、共有したりして、今を大切にしたいですよね。今を十分に生きること、悔いなく何かをすることの積み重ねが、将来に現れるんだと思います。
 子どもが成長し、親から離れていくのは寂しいですが、避けられないことですね。中学生ぐらいになり、親に相談すれば何でも解決するわけではないと知りはじめると、友だちや親以外の大人も大切な存在になっていきます。でも、親は子どもが自分の思いどおりになるという考え方から、なかなか離れられないんですね。
 それから、子どもが成長したあとの自分に不安を感じるということは、親自身が自分の生き方に不安があったり、子どもが自分とは別の人格だということを認めていないということかもしれません。時々は自分を振り返り、親も自分に正直になって、自分自身の思いを大切にしながら、子どもとは別の「自分の人生」を楽しむ気持ちを持つことも大切です。それで、もし困ったことがあれば、人と話をしてみることでまた振り返ることができるし、突破口が見つかるかもしれませんね。
お答えは 長屋佐和子さん
子育ての理想がふくらみすぎて、子ども(4歳)を枠にはめているように思うのですが?
親の理想が子どもの思いと同じとは限りませんし、子どもを枠にはめていると感じるのは、子どもが枠から出ようとしているからかもしれませんね。2歳ごろから自我が芽生え、だんだん心が成長していき、4歳なら現実を知りはじめる時期です。親から見れば、まだまだ子どもを信頼しきれない年齢なので、枠にはめようとしてしまいますが、親の思いどおりにならないなと感じたら、少し冷静になって子どもの意思を尊重してみてはどうでしょう。
あるいは反対に、子どもが思いどおりになりすぎているようで心配なのかもしれませんね。子どもには親の望むことをしようとする側面もあります。やはり、子どもの意思にもっと注意を向けてみることが大切です。
子ども( 11 歳・9歳)が大きくなり、親子の関係が変わったように思います。 一緒に楽しむには、どうかかわればいいのでしょうか?
思春期前後の年ごろは、子どもの心から大人の心へと変化し、自分を内省したり、人の気持ちに気づいたりできるようになる時期なので、そういう子どもの心の成長を大切にしたいですね。また、不安定になりやすい時期で、機嫌がいいかと思ったらプリプリすることもあるかもしれませんが、大人はそれに一喜一憂しないほうがいいでしょう。子どもを信頼してみると、違うつきあい方ができそうな気がしますし、子どもが何を思い感じているのかという内面に関心を寄せることで、子どもとの新しい関係が見えてくるかもしれません。自分とは違う子どもの存在によって「人生を2倍楽しんでいる」というのが、私の実感です。
子どもが入園し、子育てに少し余裕が出てきました。子どもとの時間も自分自身の時間も大事だと思うのですが、 どうバランスをとればいいのでしょ うか?
子どもとの時間を大切にすることも、自分自身の時間を持つことも、両方とも自分を大切にすることだと思います。どうバランスをとるのかは、正解はないので自分で決めるしかありません。どちらかに少し進んでみると見えてくるかもしれませんし、何かトラブルが起きて行き過ぎに気づき、もう一方に戻ることもあるでしょう。そうして、気づきや反省を経ながら歩むのが親の人生ではないでしょうか。自分で決断したことなら、もし間違っても受け止められるものです。どんな決断も全部ありだと思いますよ。