どこまでがしつけなの?

熊田登与子弁護士
 このところ、子ども虐待事件のニュースが相次いでいる。そのなかで、事件を起こした親は自分の行為を「しつけのつもりだった」と語っている。また、日本弁護士連合会が昨年11月に少年犯罪についての調査(※1)を発表し、その中のしつけと虐待に関する項目が新聞で報道され、注目を集めた。その調査では、親は「厳しいしつけ」のつもりでも、子どもは「虐待」と受け止める場合があり、そういう子どもは成長してから「問題行動」を起こす傾向が強いというショッキングな結果 が出ている。
 こうした現実に「私が子どもを叩いたのも虐待?」「どこまでがしつけなの?」と、不安や疑問をもつ親もいるのではないだろうか。これらの不安や疑問に応えられればと、子どもを虐待から守るために活動する、愛知県中央児童相談所(※2)の山田光治心理判定員(臨床心理士)と、児童相談所の対応を法律面 からバックアップする児童虐待対応弁護士(※3)の熊田登与子弁護士に、しつけと虐待の関わりや日頃の取り組みなどについて聞いてみた。
 山田心理判定員は、これまで子ども虐待のさまざまなケースを見てきた。その経験から、しつけと虐待の関係をどのようにとらえているのだろうか。
 「虐待をしている親には、どこまでがしつけでどこからが虐待かを見極めるものさしはありません。しつけが行きすぎた状況で虐待が起きてくるんだと思います。子ども虐待の問題に対する世間一般 の理解が深まったことで、体罰の許容レベルが厳しくなり、今まではしつけで通 っていたことが虐待と見なされるようになった面はあります。しかし、虐待の問題は子どもの視点で考えることが必要であり、親はしつけのつもりでも、子どもの心身に悪影響を与える行為は虐待と判断されます」
 しつけのつもりが虐待になってしまうとしたら、どんな場合だろうか。熊田弁護士はこう語る。
 「たとえば、しつけに暴力がともなって体に傷が残ったり、子どもが傷つくような言葉づかいで叱ったりする場合ですね。あるいは、つい手が出てしまったという程度ではなく、何度も叩いたり倒れた子をけったりするのは、しつけの枠を超えていると思います。その場合は、自分のストレスを子どもにぶつけているか、自分も親にそうされた経験から他の方法を知らないか、などの原因が考えられるのではないでしょうか」

山田光治心理判定員
(臨床心理士)
虐待が起きてしまったら…
   2000年度に愛知県の8つの児童相談所で虐待として扱われたケースは547件ある。虐待の状況別 で見ると、身体的虐待が半数以上を占め、ネグレクト(養育の放棄・拒否)・心理的虐待・性的虐待と続く。年々、相談件数は増え、児童相談所の業務の中でも虐待問題は大きなウェイトを占めつつあるという。
 児童相談所が虐待の連絡を受けると、地域の民生委員・児童委員、保健所、学校、病院、警察、弁護士など、その子どもや家族と関わりのある機関と一緒に「危機児童・家庭サポートチーム」を組み、情報の収集や分析を行う。それに基づいて虐待かどうかを判断し、子どもを保護するか在宅のまま援助するかなどの対応を決める。そして、ケースに合わせた方法で、家族関係の修復に向けてカウンセリングや生活支援を行っていく。
 子ども虐待に対する児童相談所の方針について、山田心理判定員はこう話す。
 「虐待はいったん起きるとなかなかやまず、繰り返されるたびに重症化していくので、見過ごすわけにはいきません。子どもの安全を守ることが児童相談所の第一の役割なので、虐待があった場合には、子どもを家庭から切り離すかどうかが重要なポイントになります。そのときには法的判断など、虐待対応弁護士さんのサポートが必要になってきます」