カウンセリングで
元気をとりもどす子、我にかえる親。
   さて、心理相談室「こころ」にやって来た親子に定森さんはどのように対応し、それによって子どもと親はどう変化していくのだろうか。
 子どもに対しては「プレイセラピー(遊戯療法)」を行う。プレイセラピーとは、自由に遊ばせながら、元気になろうとする子どもの力を育てる療法で、オモチャで遊んだり、水遊び・泥遊びをしたり、ときには何かを壊したりする。それを何度か続けるうちに、縮こまっていた子どもの心と体が解き放たれ、元気になっていくという。
 また、親に対しては子どもになぜ変調が起きたのかを説明する。「『それはお母さんが悪いからではなく、お母さんの思いとは違うふうに子どもは受けとめていたんですね』と話すと、お母さんは我に返り、気持ちが安定して、それからは子どもが楽しんでいるかどうかを見られるようになっていきます」。

プレイセラピーの遊び道具には
ボクシングセットやスポーツチャンバラもある。

 軽い気持ちで習いごとや早期教育を始めても、いったんそのレールの上に乗ると、親は「上達させねばならない」「続けさせねばならない」と思い込み、軌道修正ができなくなってしまうのかもしれない。
 「いま悩んで苦しんでいらっしゃる方には酷な言い方になりますが、原点に戻って迷ったり悩んだりすることも大事だと思います。悩むことは悪いことと思って、悩まずにマルかバツかを決めてしまう傾向があるようですが、悩むと『ねばならない』という気持ちがトーンダウンするんですね。そうすると心に余裕ができ、本当は自分はどうしたいのか、子どもはどうしたいのかが見えてきます。子どもの方もそういう親の変化を見ると、自分のことを心配してくれているんだなと見方が変わり、ゆとりが出てきます。
 また、子育てにまわりの人を巻き込むことも必要ですね。自分だけの責任だと『ねばならない』という方向に行ってしまいますが、たとえ夫に『お前の好きにしろ』と言われても、話し合っていれば結果責任は半分になりますから。できるだけ『ねばならない』を減らすことが大事ですね」。
プレイセラピーの部屋                      
 「子どもは、たとえば砂しか遊ぶものがない場合でも、黒い砂と白い砂に分ける遊びに夢中になったりして、遊びを発見する力を持っているんですね。そして、遊びながら自分が自分であることを実感し、自信がついて、大人になってもまわりに振り回されなくなるんだと思います」。
 親としては、習いごとや早期教育にはできるだけ柔軟に対応し、子ども自身が好きなことを見つけていくのを見守れる、心のゆとりを持つことが必要なのだろう。

(取材日/2001年7月5日)

※臨床心理士とは
 臨床心理学など、心理学の知識やさまざまな技法を生かして心の問題にかかわる心の専門家。学校に勤務するスクールカウンセラーをはじめ、児童相談所・家庭裁判所・保健所・病院、大学の学生相談室などいろいろな場所で活動し、定森さんのように自分で開業する人もいる。臨床心理士の資格は、大学院で専門的に学んだ後に1年以上の臨床経験がある者、あるいは大学の心理学系学部を卒業して5年以上の臨床経験がある者で、資格審査に合格した場合に財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定。資格取得後も5年ごとに資格更新審査が行われる。

心理相談室「こころ」
名古屋市瑞穂区東栄町7-8-6
TEL 052-852-8381