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相談者の中には、小さい頃には悲鳴をあげられず、中・高生やそれ以上になってから、自分で好きな服が選べない、あるいは対人関係がうまくいかないなどの問題が表れる人も多い。その背景をたどっていくと、たとえば自分がどうしたいかを自覚する前に習いごとなどをさせられていたといったように、親だけでなく周囲の大人の価値観を、疑問をもたずに受け入れてしまっていたことに行き当たる。そのまま成長したことにより、自分の感じ方や考え方を持たなくなり、自信がなくなってしまったのである。
「そういう相談者の話を聞くと、『あの頃のお母さんは訳がわからなかった』とよく言います。たとえば、5時になると『ピアノの練習よ!』と、大好きなお母さんが突然オニのようになるのはなぜなんだろうと。『あなたをピアニストにしたいのよ』と理由が説明されていれば、まだ抵抗する術もあるんですが、ただ強要されると不安になるし、心の傷になるんです。 |
つまり子どもに悪影響を及ぼすのは、習いごとや早期教育そのものより、親の押しつけというか一方通行なんですね。子どもにとって親は命綱なので、親の言うことには逆らえません。だから、親は義務や支配というかたちで、子どもに習いごとなどをさせるのはよくないと思います」。
子どもの習いごとや早期教育に親が熱心になり過ぎてしまう理由について、定森さんはどう見ているのだろうか。
「それは子どものためという思いが強すぎたり、『いい母親にならなければ』と頑張りすぎたりして、気持ちに余裕がなくなっているからだと思います。周囲にも世間にも『母親神話』みたいなものがあって、母親を追い詰めている面があるのではないでしょうか。また、習いごとが気になってしまうのは、子どもをのびのびと育てたいと思っても、お母さん自身がのびのびと育てられた実感がないことや、身近に見本がなかったり、実現できる空間もなかったりということも影響していると思います」。
では、いま習いごとや早期教育のことで迷っている親は、いったいどう対応したらいいのだろうか。
「早期教育をするかしないかは親の価値観で判断すればいいと思いますが、大切なのはどのように始め、続けて、終わるかだと思います。何かを習わせたいと思う場合には、小さい子でもその理由を言葉で説明することですね。言葉が十分に理解できない年齢でも、冷静に話す親の表情を見て子どもなりに納得するものです。それに、小さい子ほど楽しくできることが重要ですから、そういう雰囲気をつくることが必要でしょうね」。
また、習いごとを途中で「やめたい」と言われたときの親の対応については、「あっさりやめさせてもかまわないと思いますよ。世の中には、イヤなことを我慢して続ければ我慢強い子になる、という価値観がありますが、やめたからと言っていい加減な子になるとは思えません。本当に好きなら、またやりたくなるかもしれませんし。好きなことを頑張ること、好きなことを見つけられる能力を育ててあげることの方が大事だと思いますね」。
子ども自ら「やめたい」「イヤ」と言えることはむしろ歓迎すべきことで、反対にあまり意思表示をしない場合の方が注意が必要かもしれない。
「おとなしい子の場合は、親の方から声をかけたり、『イヤ』のサインを読みとったりすることが必要です。子どもがイヤがっているときは、そのことを話さなかったり、おけいこカバンを避けて通ったりなど、何らかのサインを出すはずです」。
また、物を投げたりして荒れてしまう場合は、子どもも訳がわからずイライラしている状態なので、問いつめずに「何かイヤなことがあったんだね」と、まずイライラを収めてやることが必要。そうすれば子どもは「お母さんに収めてもらえた」と安心して、そういう行動は減っていくという。
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