あのねっと 今号の特集テーマ 子育てに、よろこびを感じるとき  
特集3 アドバイスをよろしく

特集3 アドバイスをよろしく 自分の思い込みに気づくと、子どもとも関係がラクになってくる。
ながや・さわこ
専門は臨床心理学。臨床心理士、博士(心理学)。乳幼児の表情写真で構成された心理検査ツール「日本版IFEEL Pictures」を用いて、親子関係の研究やカウンセリングなどによる育児支援を行う。
子どもの表情に投影される親の気持ち
先生は「表情認知と親子関係」という興味深いテーマを研究され、また臨床心理士として、子育てに悩むお母さんのカウンセリングもされています。その研究は、カウンセリングにどう生かされているのでしょうか。
 「表情認知と親子関係」では、親が子どもの表情をどう読み取るか、そこに親の気持ちがどのように投影されているかに注目します。
 たとえば、いろんな表情をしている1歳児の顔写真を見せて、赤ちゃんがどう思っているかをお母さんに答えてもらいます。赤ちゃんの表情はあいまいですし、読み取り方の正解もないんですが、それだけに育児中のお母さんの気持ちがダイレクトに映し出されるわけです。写真を見て非常に否定的な気持ちばかりを読み取るお母さんもいるんですが、そういう読み取りを日常的にしているとしたら、母子関係に問題が生じていることが予想されます。
 順調な親子関係を築いている親は、子どもの表情から「うれしい」「悲しい」「怒っている」といった感情や、親への要求・自己主張・甘えなどのいろいろな気持ちを読み取ります。また「お腹がすいている」「体調が悪い」など体の調子に注目したり、単に「何かを見ている」「ボーッとしているだけ」というように感情を読まないこともあり、子どもの表情を幅広く受け止めることができます。
子どもの気持ちに敏感になりすぎて…
親子関係に悩むケースには、どのような特徴が見られますか。
 子どもの気持ちに敏感になって子育てが難しくなる親には、2タイプあると思います。
 まずひとつは、子どもとよい関係だけを築こうとして無理をしすぎるタイプで、だれでも陥る可能性があります。「外で子どもを泣かせてはいけない」「怒っている姿を人に見られるのが嫌」「ニコニコした、いい感じの親子でありたい」といった気持ちの強い人が、このタイプには多いですね。
 よい関係をつくるために、子どもの要求や甘えの気持ちをすべて読み取って対応してあげようと、四六時中、子どもの気持ちに注目して疲れてしまうんですが、それでも子育てに手を抜くことができません。その結果、「気が休まらない」「ひとりの時間がない」という悩みや、「夕飯が遅れてしまう」「買い物もゆっくりできない」といった現実的な問題が生じてきます。
 もうひとつは、子どもをちゃんと育てようと頑張ってみるけれど、子育てに自信がなく、そんな自分を子どもが非難しているように感じて、子どもから否定的な情緒だけを読み取ってしまうタイプです。なんとか子どもに言うことを聞かせようとして、思わず怒ったり、手をあげたりしてしまい、あとから「どうしてあんなに怒ってしまったんだろう」と罪悪感が生じてきます。この罪悪感が子どもに投影されて、子どもが自分を非難していると感じてしまうわけです。子どもは、怒られるとよけいに反抗したりしますから、その結果、子育てをしていても楽しさを感じなくなっていきます。
どうすれば苦しさから抜け出せる?
いまお話しいただいたような親子関係になって、苦しさを感じているお母さんは、どうすればいいのでしょうか。
 ひとつめの、子どもとよい関係だけを築こうと無理するタイプは、よくあろうとすればするほど追いつめられたりしますから、「こうでなければいけない」とあまり硬く思わないほうがいいかもしれません。子どもの要求にすべて応える必要はないし、不愉快な気持ちでいる時間があってもかまわない、ということに気づくとラクになると思います。たまには子どもとうまくいかない関係になったとしても、親にとっては、子どもが怒ったり反抗したりといった幅広い気持ちを感じる経験になりますし、子どもにとってもお母さんに叱られて泣くなどの気持ちを経験する大事な機会になります。よい関係だけにこだわらないで、いろんな関係をつくる、というふうに考えるといいのではないでしょうか。
 ふたつめの、子どもから否定的な情緒だけを読み取ってしまうタイプについても、実際は子どもが親を非難しているのではなく、自分の自信のなさが子どもの表情に映し出されている、ということに気づくと、気持ちがラクになるようです。そして、そんなに子どもを怒らなくてもいいとわかり、ほめてあげることで子どもの態度に変化が見られたりすると、親子関係も徐々によくなっていくと思います。
感じ方・考え方はいろいろあっていい
最後に、子育て家庭へのメッセージをお願いします。
 子どもの世話に時間を取られて、夕飯が遅れてしまうという悩みを持つお母さんは多いと思いますが、悩む理由を具体的に考えてみると、自分の思い込みに気づくかもしれません。たとえば、夫に叱られるからなのか、寝る時間が遅くなるときちんと育たないと思っているからか、あるいは保育園の先生に家庭の状況を知られたら恥ずかしいからなのか。
こうした自分の思い込みに気がつくと、○○しなければならない、といった硬さがやわらいで、気持ちがラクになるようです。ただし、理由がわかっても、必ずしも解消しなくてはいけないわけではありません。なぜなら、何とかしなくてはという思いを子どもに向けることになると、また次のつらいサイクルが始まってしまうからです。現実には1日のスケジュールや生活のルールがあり、親がラクになりさえすればいいわけではないので、子育ては大変ですよね。
 自分の子どもは客観的に見られないのが普通ですし、子どもを自分の成績表のように思って熱中してしまうのも仕方がないと思います。親の個性には幅がありますし、子育てに正解はありません。いろいろな気持ちや考え方があっていい、というふうに考えてはどうでしょうか。
お答えは 長屋佐和子さん
子ども(2歳)の要求にいつも応えているのですが、きりがありません。甘やかしすぎでしょうか?
親と子どもとの関係は、親か子どものどちらか片方だけで成り立つものではありません。親がいつも応えていると、子どももうれしくなってたくさんのメッセージを表現するようになります。それはけっして悪いことではないのですが、もしも子どもからのメッセージが多すぎて負担に感じるのであれば、時にはそのメッセージに応えないときがあってもよいと思います。親が子どものメッセージを読み取ったら、それに応えるのは当然だとお思いかもしれません。そうしないと、子どもが嫌な思いをしてしまうのではないか、子どもが親を嫌うのではないか、などと不安に感じることもあるでしょう。けれども、子どもがうれしさや楽しさだけでなく、欲求不満・怒り・我慢などさまざまな感情を体験することは、成長する上でとても大切だと思います。
わが子(5歳)はいつも不満そうな顔で、こちらもつい怒ってしまいがちです。どうしたら満足した顔をしてくれるのでしょうか?
子育てをしていると、どうしつけたらいいのかわからなかったり、このままの育て方で本当に大丈夫なのかと心配になったりすると思います。特に反抗期の子どもの言動に接すると、だれしもいらだちや不安を感じるものです。このような気持ちになるのはごく普通のことなのですが、子育てに自信がなくなるくらいに不安が強くなると、子ども自身にはそんなつもりがなくても、子どもが親に対して不満や不信感を持っているように感じられてきます。親として頑張っているつもりなのに、子どもから不満顔を向けられると腹が立つし、親に怒られた子どもも不機嫌になりやすい、といった関係になってしまいがちです。成長過程で子どもが我慢することを覚えていくのはとても大切なことです。子どもの表情が不満そうに見えたとき、我慢を体験しているところなのか、親の不安や自信のなさからそう見えてしまうのか、少し立ち止まって考えてみるとよいかもしれません。