あのねっと今号の特集テーマ 「親子であそぶ」って? 
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やまもと・ひでと
中京大学大学院体育学研究科修士課程修了。専門分野は幼児体育・体育科教育で、特に幼児期の技能習熟(できる)と技術認識(わかる)の相互関係について研究。
運動能力とは何か
「親子であそぶ」という特集テーマの中でも運動遊びについて、幼児体育がご専門の山本先生にお聞きしたいと思います。まず、幼児期の発達と運動能力には、どのような特徴がありますか。
 子どもの発達過程で、たとえば3歳児ぐらいになると、少し高いところを見つけては、やたら飛び降りたがりますよね。そして、初めて飛び降りるときは足のクッションがうまく使えずドンと降りますが、何回も繰り返すことによってうまくなっていく。これは、飛び降りたときの衝撃を和らげる能力「降下緩衝能」を学習しているんです。
 逆に言うと「何らかの運動能力が伸びる時期にはそれをやりたがる」ということ。運動能力は生まれつき持っているものではなく、日々の生活や遊びの中で少しずつ学習し、獲得していくものなんです。2歳半前後ぐらいで走り始めるときも最初はぎこちないですが、手の振り方を教えてあげるとがらっと変わりますし、さらに降下緩衝能を身につけると、片足ずつ地面に着くときの衝撃を和らげ、スムーズに走れるようになる。運動能力は、相互関係も深いんですね。特に4〜5歳児にかけて、このような発達の道筋が表れてきます。
 また、運動能力というと体の発達だけに目が行きがちですが、「頭でわかっている」から「体を動かせる」はずなんです。ですから「運動」と「認識」、そして認識の前提である「言葉」の発達はセットで考える必要があります。
もともと運動嫌いの子はいない
運動するのを嫌がるようなときには、どのように対応すればいいでしょうか。
 3歳児ぐらいまではみんなと一緒にやること自体が楽しいんですが、4歳児になると自分と友だちを比較して「できる・できない」「うまい・へた」がわかるようになります。そのために「Aちゃんはできるのに自分はできない」とわかると落ち込み、「やりたくない」とか「できなくてもいいもん」という言葉も出てきます。
 でも、「できなくてもいいもん」の裏側には「Aちゃんのようになりたい」という気持ちがあるはずですし、できないのは、たまたま技術的につまずいているだけです。個人差はあっても、もともと運動の嫌いな子やできない子はいないんですね。
 ですから、まわりの大人は「この子は運動が苦手」と決めつけず、「今はできないけど、ここをこうしたらできるかもしれないよ」と言って見通しを持たせてあげたい。そうすると、すぐにはできなくても前よりよくなれば、「やろう」という気持ちになります。そういう意味では、子どもにとって、自分を信頼し支えてくれる親や保育士など他者の存在がとても大事になってきます。
 5歳児になると、自分以外の子たち同士の「うまい・へた」「できる・できない」がわかるようになると同時に、子ども同士で教え合う力も育ってきます。また、自分ひとりができるよりも「クラス全員ができるほうが楽しい」と思える年齢でもあります。だからこそ、特に保育園など集団の中では、そういう時期を生かして「みんなができる楽しさ」を経験させながら、でき具合によって仲間はずれにしない能力観を育ててあげたいですね。
側転はだれでもできる!?
幼児体育について、何か新しい傾向はありますか。
 マット運動というと、前転・後転をすぐにイメージされると思いますが、最近の保育園などでのマット運動は側転の取り組みが多くなっています。側転は決して難しいものではなく、運動発達の流れを考えれば、5歳児でも少し指導をすれば当たり前にできるようになるんですよ。子どもが喜ぶのも、前転・後転に代表される「ロール系」より、側転のように手と足だけをマットにつけて跳ね回る「スプリング系」の運動だと思いますし、発達に応じてよりおもしろさを伝えられるのもスプリング系のほうではないでしょうか。
 また、体育教育として考えた場合、ひとつの運動技術への取り組みを通して何を教えたいかが重要になってきます。たとえばボール運動では、基礎技術やゲームの作戦といった「ボール運動自体を教える」面と、ルールや社会性など「ボール運動を使って教える」面の両面があり、私は後者のほうが大事なような気がします。跳び箱では、高く跳ぶことを追求するだけでなく、跳び箱を使って表現するおもしろさや気持ちよさを教えることもできると思いますね。
「どうしてできないの」は禁句
親子で運動遊びをするとき、親として心がけることは何でしょうか。
 基本的には、子どもは親と一緒に遊ぶのが絶対に楽しいはずですから、一緒にやってあげてほしいですね。細かいことを言わず、向かい合ってボールを投げたり蹴ったりするだけでも、何とも言えない心の交流がありますよね。親自身がうまくできなくても、かまわないと思います。
 また、「何歳になったからこれができる」ということではなく、「できる条件はあるので、それを引き出してあげる」というふうに理解してください。できないときに、ただ「がんばれ」とだけ言うと子どもを追いつめてしまいますし、「どうしてできないの」は禁句です。4歳児ぐらいになると納得すればがんばるので、何をどうがんばればいいかを親も一緒に考えてあげて、具体的な言葉がけをしたあとに「がんばろう」と言ってあげてほしい。子どもの発する言葉や表情を気にかけながら、かかわってもらえればと思います。
(注)「〜歳児」という表記は、例えば3歳児の場合、その年度中に満4歳になることを意味する。
スキップができるようになるコツは?
スキップはだいたい4歳児でできるようになります。基本は片足跳び(ケンケン)ができることで、片足跳び2回を左右交互にすればスキップになります。その場で「トン・ト」「トン・ト」というリズムに合わせてやってみてください。その後、ゆるい坂道で少しずつ進みながらやるとやりやすいです。それでもできないときは、子どもの左右に大人が手をつなぎ、一緒にスキップのリズムで進んでみてください。
プールで水に顔をつけられるようにするには?
自分で呼吸のコントロールができ、息こらえができるようになるのは3歳児ぐらいです。まずはプールに入る前に、息を止めさせて頭から水をかけたあと、止めていた息を「パッ」と一気に吐き出させ、顔にかかった水を吹き飛ばさせてみてください。お風呂で試してみてもいいですね。子どもがプールを嫌いになる最大の原因は、呼吸を確保できないことによる不安感です。実は、息を「パッ」と一気に吐き出すことで空気が入ってくるのです。また、水に慣れるために、息を止めて水道水で顔を洗う、シャワーで頭から水をかけてもらう、といったこともやっておきたいですね。
運動を苦手にさせないためには?
最初にもお話ししましたが、子どもが何かをやりたがる時期というものがあり、それはその運動ができるようになっていく時期なのです。たとえば、3歳児ぐらいになると高いところから飛び降りたがりますが、その際には「見てて見てて」とそばにいる大人に声をかけます。この言葉は「自分はこんなことができるんだよ。すごいでしょ」という意味を含んでいて、ほめてくれることを期待しているのです。基本はほめてあげることですが、いつもうまくいくとは限りません。うまくいかなかった時にこそ、その原因を一緒に考えて、できそうな方法を試してみることが大事だと思います。