専門家に聞きました。

妊娠・母乳Q&A(お答えは前田さん)
前田助産院・助産師   
前田弘子 さん

自分の体をとことん知る「十人十色のお産塾」。
 前田さんは、自宅出産をサポートする一方で、「十人十色のお産塾」(※1)という出産勉強会を開いて、女性が自分の体を知ることや、自分らしい出産をすることの大事さを広めていらっしゃいます。このお産塾では、具体的にどのようなことを教えているのでしょうか。

 「十人十色のお産塾」は、まず自分の体をとことん知ることを基本にしています。受講者の方に「子宮がどこにあるか知っていますか?」と聞くと、大ざっぱな答えは返って来るんですが、正確な場所についてはたいていの方がわからないんです。妊娠に関しての知識も少なくて、妊娠したくても確率の高い日がいつかを知らない人が多い。
 だから、お産塾では子宮の位置や大きさ、生理の何日後が妊娠しやすいか、という話から始めることもあります。そうすると、受講後に妊娠する人がけっこうな割合でいて、それもちょっと楽しみなんですよ(笑)。また、精子と卵子が「3億分の1」と「70万分の1」の確率で出合うといった数字なども紹介しながら、その妊娠がどれほど貴重であるかを知ってもらい、妊娠の神秘性を感じてもらえればと思っています。
 赤ちゃんと胎盤の位置関係やお母さんのおなかの中にいるときの様子、それから切ったあとのへその緒はどうなるのかなどについても説明します。そのときには、妊娠2カ月から新生児まで9種類の等身大の胎児人形を見せて、胎児の大きさや重さ、胎盤との関係を実感してもらいます。人形は手作りのもので、受講者の方に抱かせてあげると「こんなに重いの?」と驚かれますね。また、妊娠の経過が安定しているのか、あるいは不安定でドクターのチェックを受ける必要があるのかといった体調の判断も、自分で体感してもらいます。
 出産について一番みんなが知らないのは、自然に生まれた赤ちゃんは、血まみれではないということ。胎児はどこも血液と交わっていないので、出産のときに会陰切開や無理な操作をしなければ、血液にふれることはありません。後産で出てくる胎盤には血液がたくさん含まれていますが、自然な出産であれば、それは見事に羊膜に包み込まれた形で出てくるんですね。
 「十人十色のお産塾」は夫バージョンもあって、出産のプロセスや夫の役割などについて話します。妻に言われて仕方なく来た人が、受講後に「なかなかいいと思いました」と変身する姿を見るのも楽しみなんですよ。
自分の「産む力」に気づくと出産や子育てが楽しみになる。
 そもそも、なぜお産塾を始められたのでしょうか。また、自分の体を知ることは、自分らしい出産や子育てを楽しむことにどのようにつながっていくのでしょうか。

「十人十色のお産塾」を始めたのは、病院の出産勉強会がおもしろくなくてあまり役に立たないという声を耳にしたのがきっかけです。出産に対する不安の方が大きくなって楽しみにつながらない場合が多く、出産がゴールになってしまってその先の展望を持ちにくい。だから、もっと出産を楽しみにできるような勉強会ができないかなと思ったんです。
 自分の体をよく知り、妊娠・出産について詳しくなることによって、赤ちゃんは自然に生まれてくるものであり、女性は自分で産む力を持っていることに気づいていきます。そうすると、自分はどういう出産をしたいかを考え、決めることにつながっていくと思うんです。病院で出産する場合でも、知識があれば「自分はこうしたい」と申し出ることができます。
 そして、自分で決めた出産であれば、自分の力でがんばろうという気力がわき、出産や子育てを楽しみにすることができるのではないでしょうか。妊娠中の健康管理にもより主体的になり、私のところに定期健診を受けに来るお母さんは、「歩くのが足らないかな」と自分から言い出される場合が多いですよ。
 自分で決めた出産を実現することによって、「自己実現」の楽しさを味わうことができます。自己実現の楽しさを知ると、人生観が大きく変わり、子育てを含めて自分らしさを大切にした人生にしようという意欲がわいてくるのではないかと思います。「十人十色のお産塾」から発展した「あいるの会」(※2)という女性たちの交流の場があるんですが、そこに集まってくる人たちは、きっとそんな思いでいるのではないでしょうか。

※1 十人十色のお産塾
母体のしくみと妊娠・出産について学び、自分に合った出産プランを考える5回連続講座。それに加えて夫対象の講座も1回開催。名古屋市にある前田助産院内で年に5〜6回開催するほか、希望に応じて出前講座も開催。

※2 あいるの会
「自分らしく生きるために、自分で自分のことを決めよう」をモットーとする女性たちの交流の場。前田助産院「トトロホール」を活動拠点に、おしゃべりを楽しむティータイムや操体法・マタニティヨガ、子連れで学べるアロマテラピー・英会話などの教室を開催。「あいる」は「I will」から命名。