―石坂啓さん講演のあらまし―
私は家の近くの幼稚園ののんびりした雰囲気が気に入り、自分の子を1年間通わせたこどがあります。でも、園児たちはみんな受験塾通いなどをしていることがわかり、その疲れてぐったりした姿が、のんびりしているように見えたんですね。また今の公立小学校は楽しくなさそうだし、大学まで気楽に過ごせるなら、私立の受験もいいかと思ったけれど、通わせた受験塾では子どもが病気になるほどの勉強を奨励され、1カ月でリタイヤしてしまいました。
小学校で勉強することを幼児期にやる必要はないし、むしろ幼児はその年齢なりの一つひとつの段階を経て、成長に必要なものを蓄えていくんだと思います。だから他の子と比較して成長を急ぐのは意味がないことで、そもそも「未熟だから成長するようにしつけなければ」と早期教育する、大人の考え自体が不遜だと思います。
早期教育の過熱は、教育産業市場の対象が低年齢化していることに起因しているから、親は育児雑誌などに惑わされない方がいいですね。また母親が孤立したり、子育てが自己表現の場、つまり子どもが自分の作品になってしまうというような、母親の焦燥感・閉塞感はあまり理解されていないと思います。
マンガ家は締め切りが迫るとケバケバしてしまうので、赤ん坊を育てることと週刊誌の連載は両立できず仕事を休みました。赤ん坊は見ていて面白かったし、子どもがいる生活も楽しいと思いました。その間に、新聞の連載「赤ちゃんが来た」を書かせてもらいました。
私の夫は、子どもを背負わせようとしても体をかがめず、「斜めになって」と言ったら横に傾く人なんです。ミルク作りを頼んでもヤカンいっぱいの水を沸かし、できあがった頃には子どもは寝ている始末。言わなくても察しがつきそうなことをしてくれず、イライラをため込んだこともありました。子育てに対する男女の意識に差があり、そのしわ寄せが女性に来るというのが現状で、夫婦がその場その場で折り合いをつけていくしか、解決策はないようですね。
小さい子どもが何かを伝えようと、持てる言葉で精一杯に表現する姿は魅力的で、そこに子どもなりの知恵や工夫・切実さがあると思います。だから大人の価値観で計らず、子どもの感性を大事にして、たくさんムダなことをさせるという見方をしたいし、親も子どもと過ごすことを楽しんでほしいですね。そして少しずつでも社会を変えていけるよう、力を合わせて理解を求めていくことが必要だと思います。(文責:編集担当)
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