Prisca Molotsi
(プリスカ・モロツィ)さん


ジャズシンガー・大学講師・音楽スクール講師。1986年国連研究員として来日。1991年南山大学経済学部を卒業。日本人男性と結婚し、1999年に長男・十兵衛ちゃんを出産。名古屋市在住。
ホームページは、http://www.priscamolotsi.com
子どもを親戚に預けるのは普通。

 南アフリカでは、特に教育のある女性は、結婚しても仕事を続けるのが当たり前になっています。だから、子どもは両親だけでなく祖父母や親戚 ・メイドさんなど、みんなで育てます。友だちや近所の人も手助けしてくれます。仕事はだいたい5時に終わるので、お父さん・お母さんは家で家族と一緒に夕飯を食べ、そのあと子どもの宿題を見たり、本を読んであげたり。ファミリーの時間を大切にします。
 自分の子どもだけを大切にするわけではないんですよ。たとえば、お金が足りなくて子どもが学校へ行けない親戚 がいたら、別の親戚がその子を預かります。遠い親戚でも同じです。昔から、私のもの、あなたのものというような考え方はしないし、親子が離れて暮らすのも特別 なことではありません。
 私のお兄さんとお姉さんも小さいときに4年ぐらい、おばあちゃんと暮らしていました。そのころ、お母さんは大学生、お父さんも大学を卒業したばかりで、アパルトヘイトのために黒人は遠くの大学に行かなければならなかったからです。そうやって、みんなが子育てのサポートをするのは自然なことで、昔の日本と同じではないでしょうか。

民族のルーツを大事にし、いい教育を受けさせることが基本。

 南アフリカでは、お年寄りを尊敬しますし、自分のルーツを大事にします。たくさんの民族やグループがあって、肌の色が少しずつ違い、名前や言 葉も違います。自分のルーツを大事にするということは、プライドを持つこと。だから、自分たちがどういう民族なのかを子どもに教えます。私はツワナという民族で、ツワナ語を話します。プリスカという名前は、おばあちゃんからお母さん、そして私へと受けつがれてきたものです。先祖の名前を受けつぐことで、スピリットも生き続けると考えているんです。
 南アフリカは1994年にネルソン・マンデラが大統領になるまで、黒人は教育を受けるチャンスが少なく、今も教育を受けられない子どもがいます。だからこそ、子どもにはいい教育をという気持ちが強く、私のお父さんも、私を当時住んでいたザンビアのいちばんいい学校に入れてくれました。いい仕事につくにはいい教育が必要で、教育があればあとは自分で何でもできると思います。お金はかかったと思いますが、私はすごく感謝しています。

息子の子育ては、いとこが頼り。

 息子の十兵衛はいま4歳です。十兵衛という名前は、ダンナさんが柳生十兵衛の本を読んでいるのを見て、日本の伝統的なものが好きな私が決めました。強そうな名前だし、みんなと同じじゃない方がいいでしょ? 家では、私は十兵衛に英語で話し、ダンナさんは日本語で話します。そのせいか、十兵衛は相手が日本人かどうかで自然に日本語と英語を使い分けているようです。
 ダンナさんは仕事から帰るのが遅く、私もジャズシンガーとしてライブに出演しながら、大学の英語講師や音楽スクールの講師をする忙しい毎日です。だから、十兵衛の世話は、南アフリカから来ているいとこやおばさんに手伝ってもらっています。私が子どもを預けていると、日本人から批判されることもありますが、それは考え方の違いだと思います。十兵衛には、いつもママと一緒じゃなくても、独立心を持って自分で考えて行動できるようになってほしいと思いますね。