John Snow(ジョン・スノー)さん

本の読み聞かせはお父さんの役目。

 イギリスと日本の子育てを比べていちばん違うと思うのは、お父さんが子どもと一緒にいる時間の長さです。イギリスでは日本ほど遅くまで仕事をしませんし、仕事が終わったらすぐ家に帰るので、一緒に晩ごはんを食べたり話をしたりと、子どもと過ごす時間が長いのです。外でビールを飲みたいときには、子どもが寝てから近所の友だちと出かけます。
 赤ちゃんが生まれたときも、日本のようにお母さんが実家へ戻る習慣はなく、お父さんが1、2週間仕事を休んで、家事をしたり赤ちゃんの面 倒を見たりします。だから、日本で最初の子どもが生まれたとき、私が面 倒を見ようと思っていたんですが、奥さんのお母さんもそのつもりだったので、イギリスと日本のやり方の違いを知り、戸惑いました(笑)。また、子どもに本を読んであげるのはたいていお父さんの役目ですし、水泳もお父さんが教えるので日本ほどスイミングスクールの数は多くありません。
 私も、子どもたちが小さかったとき、私が子どもの頃にお父さんに読んでもらった本や、姉のダンナさんがすすめてくれた本などを買い、読んであげました。「3びきの子ぶた」を読んであげたときのことですが、ふつうはこの話を聞くとブタを食べたオオカミが悪者だと思いますよね。でも、うちの下の子は「オオカミはお腹がすいているのに食べ物がなくてかわいそう。ブタを食べてもいいんじゃない?」と言ったので、ちょっと困りました(笑)。食いしんぼうの娘らしい意見なので、「そういう考え方もあるね」と私は答えました。
 ふたりの娘に一緒に本を読んであげると、下の子はよく途中で眠ってしまったんですが、読み終わる頃に目をさまして話の内容がわからず泣くので、もう1回読まなくてはいけないときもありました(笑)。

おしおきの仕方は日本と正反対。

 イギリスのお父さんは、お母さんと同じくらい家族の真ん中にいます。家にはお父さんの席があり、お父さんが帰って来たら子どもはその席をあけますし、テレビは子ども番組ではなくお父さんが見たいものを見ます。
 お父さんはちょっと怖い存在なので、お母さんは「お父さんに話すよ」と言って子どもを叱ることもあります。子どもが少し大きくなると、日本では家の外に出して反省させますが、イギリスでは反対に部屋に閉じこめるというやり方です。小さい子どもがなかなか言うことを聞かないと、叱る声がだんだん大きくなるのはイギリスでも同じです(笑)。最後には、子どもを叩くふりをして、親が自分の手のひらをパチンと叩いて叱ります。
 私が子どもの頃は、家でも学校でも体罰がありましたが、最近はイギリスだけでなくヨーロッパ全体で、子どもに体罰を与えない親が増えています。特にヨーロッパ北部では、子どもへの体罰に反対する運動が起きていて、体罰の禁止を法律化する動きもあります。
 またイギリスでは、子どもに皿洗いや靴磨きなどの家の手伝いをさせるのが当たり前で、子どもも文句を言わずにやります。家のペンキ塗りや壁紙の張り替え、ガーデニングなども、お父さんが子どもに手伝わせながらやり方を教えます。
 最近では、お母さんが外で働き、お父さんがハウスハズバンド(主夫)になる家庭も増えています。工場に代わって、銀行・保険・観光などの会社が増え、以前より女性が働きやすい環境になったからだと思います。

朝は子どもが自分で起きて学校へ。

 親としての目標は、子どもの自立心を育てることです。そのために、赤ちゃんでも6カ月ぐらいになったら自分の部屋で寝させます。はじめは泣くので、少しずつひとりで寝る時間を増やして慣れさせます。
 日本では、朝、子どもを起こすのに苦労するお母さんが多いようですが、イギリスでは7歳ぐらいになると自分で起きなければいけません。もし親が声をかけるとしても1回だけ。自分で起きなければ学校に遅刻してしまいます。勉強をちゃんとするかどうかも子ども自身の責任で、親が「勉強しなさい」と言わないのは、日本ほど進学のための競争が激しくないという理由もあります。また、子どもは小さいときから親と論理的な会話をしますし、子どもだから許されるという考え方はあまりありません。
 子どもたちの自立心が育った結果なのか、大学に進学する場合には家からできるだけ遠くにある大学に行きたがります。うちの娘もふたりとも家を出て、東京と京都の大学に行ってしまいました(笑)。