アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム汗かくメディア2021受賞作品公開展示【記録】
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2021年10月16日(土)から10月31日(日)まで
愛知県児童総合センター(以下、A C C)では、開館当初からおこなってきた遊具・あそびのプログラム開発事業として、「アートと遊びと子どもをつなぐプログラム」(第1期)を1996年から2002年までに6回実施し、2006年の再オープンから2016年までの10年間は「アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム“汗かくメディア”」(第2期)として継続してきました。この間、数多く寄せられた優れた応募作品は、愛知県児童総合センターおよび地域のあそび場の活性化に寄与してきました。そして2018年より第3期として公募を再開し、さらに[アート]と[あそび]と[メディア]の原点に立ち返り、新たなあそびのプログラム開発に取り組んでいます。
ACCの目指す[あそび」と、[アート]にはいくつもの共通点があります。
固定観念を問い直すアートの自由な発想と表現方法は、日常の縛りや通念から解放し、五感を開き、新しい気づきをもたらします。ACCで開発されているあそびのプログラムも、同じように既成概念を取り払い身近なものやことを見直し、そこから新しい発見が生まれます。
今、私たちの身の回りにはコンピューターをはじめとするデジタル機器があふれていて、もはや生活の一部となっています。そんな現代だからこそ、改めてデジタル以外のメディアにも目を向けて、多種多様なものやことの可能性を探る機会が求められているのではないでしょうか。『アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム』では、[アート]の視点が取り入れられた様々な媒体(メディア)による新しい[あそび]を実現することによって、私たちをとりまく世界との「これからの関わり方」を提案していきます。
昨年度2020年はコロナ禍での選考と、実施の目途がつかない手探りの 状況下において、受賞者及び関係者の皆さんとの話し合いや提案により 公開展示を実現できたことは、私たちにとっても貴重な経験となりました。
2021年は「新しい生活様式」を求められる中での募集となり、デジタル メディア技術を駆使した、「リモート」など人や物に直接「接触をしない」作品 が数多く提案されるであろうと思われましたが、結果は逆に、実際に目で 見て、音を聞き、触れて感じるような「実体験」を重視した作品が多く提案 されたことがとても印象的でした。
そして今回、2007年以降「汗かくメディア」というタイトルをつけてから 初めて、デジタルデバイスを必要としない 3つの作品が受賞し、過去の「汗かくメディア」とは一味違った新しいあそびを実現することができました。
14日間の公開展示の期間中、延べ813人が作品を体験しました。これ らの作品をとおし参加者自体が自分だけの感覚を身近なものから見出す 面白さに気づいてもらえればと感じています。
うらにわには 2 わうらには 2 わ にわとりがいる:3D
塩谷 佑典
1998年生まれ、愛知県出身。愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 デザイン領域博士前期課程に在学中。「遊びから生まれるコミュニケーション」をテーマに、アナロ グゲームやデジタルゲーム、XR など様々なメディアでの「遊び」を研究しています。
作品解説
この遊びは「ひらがな」の「誰でも読めるのに、それだけだと読み づらい」特性を活かしたカルタのような遊びです。
この遊びでは、まず「うらにわ」と「うら」と名のついた2つのフィー ルドが用意されており、そこに「にわとり」や「はにわ」、「わに」などの さまざまなクッションが転がっています。プレイヤーは、それらの クッションをスクリーンに表示される文章(読札)にそって拾い上げる ことで得点を獲得します。例えば「うらにわににわとりがいる」という 文章がスクリーンに表示されたら、プレイヤーは「うらにわ」の「にわ とり」のクッションを拾い上げ、もし「うらにはにわがある」という 文章がスクリーンに表示されたら、プレイヤーは「うら」の「はにわ」を 拾い上げなければなりません。ルールは簡単なのに、意外と難しい。 大人も子供も一緒になって全力で楽しめる遊びです。
作家感想
今回の公開展示では「うらにわには 2 わうらには 2 わにわとりがいる:3D 」という遊びを、大人から子どもまで合計 3 0 0 人以上の方に遊 んでいただきました。この遊びは、もともと自身が製作した同タイ トルのカードゲームが原案となっているため、その他の展示作品と異 なる点が大きく 3 つありました。それは、「ルール」と「競走」と「勝敗」 です。公開展示において最も不安だったのは、上記 3 つの要素を子ど もたちや保護者のみなさんが「理解した上で楽しく遊んでくれるの か」が非常に不安でした。そのため、対策としてアニメーションを用 いたスライドショーによるルール説明や、遊ぶ前のチュートリアル、盛り上がりを作るための設問など、細部に至るまで子どもの注意を 引くような演出を心がけて制作を行いました。しかし、実際の展示で は心配していたことはほとんど杞憂に終わりました。なんと、遊んで くれた子どもたちの多くは、自身が想定していたよりもずっと飲み 込みが早く、中には大人よりも答えを見つけ出すのが早い子どもも 少なくなかったのです。逆に、課題として浮かび上がったのは「悔し くて泣いてしまった子ども」の対応などでした。子どもたちはこの 遊びに真剣に向き合ってくれたからこそ、負けてしまった時に非常に 悔しい思いをして、泣いてしまったり、拗ねてしまったりすることが ありました。もちろん、そういった悔しい思いをすることは決して 悪いことではなく、子どもが成長していくために必要なことではある のですが、同時にそれが心の傷にならないようしっかりフォローする のも我々大人の仕事であるなと思いました。今回の展示では、遊んだ 後の得点の読み上げをあえて優勝者のみに絞ったり、「いい競走が見 られた」と全員を讃える言葉を投げかけたりと、司会として敗北感を コントロールしましたが、今後はそのフォローまで視野に入れた、競 走の良さを残しつつも心に傷が残らないより楽しい遊びを作っていけ たらと思います。
◎超けんけんぱ
身体企画ユニット ヨハク
論理的思考を得意とする加藤と、身体性を基軸とする秋山の2人による 、パフォーマンス を表現手法としてつくり 方から開発するユニット 。 2016年 3月結成 。 コンテンポラリーダンスを紙芝居と融合させた「やけに前衛的な桃太郎」、白線渡りをしながら踊る屋外ダンス映像作品「白線の湖」、 Excelを用いて舞台上に複雑な動きの交錯を実 現させる「スクランブル交差空間」など、形態・メディアを自在に変容させて作品を企画している。 近年では、ワークショップやアートプロジェクトの実施など、状況の設計自体にも積極的に取り組んでいる。ugokizukan.com
けんけんぱマスター:ぐねぐねマスター/秋山きらら、どーんマスター/加藤航平、うぃーん がしゃマスター/額田尋美、ふわふわマスター/上井菜奈、綿貫美紀、杉本音音、星洸佳
構成:加藤航平 振付・作曲:秋山きらら、加藤航平 衣装・デザイン:秋山きらら デザイン協力:佐藤萌香 記録撮影:とーます
作品解説
「超けんけんぱ」は、ダンスの振付の考え方を用いて、誰もが知る「けんけんぱ」を拡張しようという試みです。
難度を上げた「けんけんぱ」の印と、常設で流れる音声から成っており、 音声は「けん」「けん」「ぱ」のリズミカルな声に「ぐねぐね」「ふわふわ」な どの擬音が混ざり、参加者に様々な動きを促します。 また時折現れては「超けんけんぱ」をクリアして去っていくパフォーマー「けんけんぱマスター」の巧みな動きが、擬音の多様な解釈を、まるでダ ンスパフォーマンスのように披露します。
作家感想
今回の「超けんけんぱ」は身体企画ユニットヨハクが2019年に初演 した作品を改編し、愛知県児童総合センターの空間にフィットさせた 形での上演を目指しました。 沢山の子どもが沢山訪れる、楽しい遊びが揃っているカラフルな建物の中に、どのような設計にしたら振付家(=作家)が不在でも遊べる強度のある作品になるのか。その一つの答えとして、「ぐねぐね」「ふわふわ」「どーん」「うぃーんがしゃ」という身体が反応しやすい4つの擬音語を「けんけんぱ」のリズムに混ぜこみ流しました。 「ぐねぐねけんけんぱ!」という声で始まる音声に、どれくらいの子どもが気付いて実践してくれるのか賭けではありましたが、音声に合 わせて腰に手を当てぐねぐねと回している子どもの姿を見た時に、「この動きがこの子にとってのぐねぐねなのか!」と作品に反応してくれたことに喜びつつ、その動きに感心しました。
パフォーマーである「けんけんぱマスター」の動きは、よりダンス的な動きや、複数人の動きを組み合わせた面白さなど、身体的な巧みさ が分かりやすい構成を意識して振付けました。けんけんぱマスターの登場を毎回心待ちにして、「けんけんぱうまい!」「私もやりたい!」と 拍手を送ってくれた子どもたちが沢山いたことに元気をもらいました。一方で、予想していなかったことも起こりました。けんけんぱをクリアすること自体が単純に楽しいためか、いかにゴールに早く辿り着 けるかスピード勝負をする遊び方も多かったこと。また、子どもたちが 「じゃあ、ぱだけ跳んでみよう!」等と勝手に遊びを発明していく光景も見受けられました。今回の作品制作の際には、どこまで振付家の意図で縛るのか、ルー ル説明をするのか、異なる遊び方を許すのか、という点を特に議論していましたが、結果的に意図通りの遊び方/意図から外れた遊び方、 両方の出来事が見られたことで、振付家とダンサーのやりとりを拡張した我々の作品が「遊具」として体験いただけたと感じました。今回の展示を経て、この作品をより成長させて多くの方に体験いただきたいという気持ちが強くなりました。
◎だれかのみた風景をみにいく
フジマツ
近藤令子と松村淳子によるアートプログラムユニット。アートを介してものごとを多角的な視点からみることの楽しさを提案するプログラムを企画運営。
https://www.fujimatsu-art.com
プログラム協力 楽曲提供:てんしんくん
作品解説
来館者全員に情報を発信する「館内放送」をメディアとした、風景がテーマのプ ログラムです。館内外でみつかる風景を、だれかの視点でみつめるとき、そこには きっと新しい発見があるはずです。事前プログラムと会期中に集めた『だれかに教 えたい風景』から、フジマツが気になった風景を紹介する放送を事前に録音し、1日3 回、館内放送を使って全館に放送します。あそんでいる最中や、休憩しているときに、聞こえてくる放送を聞いて、風景について考えたり、探しに行ったりするか は人それぞれです。また、風景についてのヒントを集めた拠点を「えほんのへや」につくりました。風景についてどんなリアクションをとるのか、参加者に大きく委ねることを試みました。
作家感想
フジマツはこれまで、いろいろなモノやコトを捉え直して見つかる「面白 さ」の、楽しみ方を提案するプログラムをつくってきました。今回のプログ ラムでは、コロナ禍での実施であることや、愛知県児童総合センター(以下、 センター)という、美術館や博物館とは異なった来館者層であること、メディ アやあそびというキーワードなど、考えるべきいくつかの条件がありまし た。なかでも、どのような「メディア」が最適なのか様々な可能性を検討す る中で、館内放送に注目しました。
館内放送は、来館者全てに向けて発信するためのメディアです。この 「全ての人に向けて」という点と、否が応にも「聞こえてしまう」という点に 面白さを感じました。プログラム自体を放送とすることで、完全に非接触 で実施できる上、人数を限定することなく、そのとき館内にいる数百人の人 全てにプログラムを届けることができます。一方で、放送を聞いた人が何を感じるか、どんな行動をするか、その反応をはっきりと受け取ることが難しいメディアでもあります。もちろん、それは放送内容にもよるでしょうし、 放送内容についてコメントを書いてもらうなど、反応を受け取れる仕組みを 考えることもできますが、あえてそのような仕組みは用意しませんでした。
冒頭で紹介したように、フジマツのプログラムは、いろいろなモノゴトの 面白い部分の楽しみ方を提案するものです。今回は、その「楽しみ方」を放 送を聞いた人たちに気づいてもらいたいと考えました。「風景」という大き なテーマを投げかけ、それに対してどのように「楽しみ方」を見つけてもらえ るのか。結果だけではなく、そのプロセスの大半を委ねることにしました。
そのために、拠点とした「えほんのへや」にいくつかのヒントを用意しま した。壁面に設置した約 6メートルのホワイトボード『風景って何だろう?』 には、風景について調べたことを書き出し、また『だれかが表現した風景』 として、複数の作家の作品紹介も行いました。中央に設置されている円形 のエリアには、フジマツが興味関心を持った風景についての様々なことを 紹介するカードを置きました。 『だれかに教えたい風景』では、来館者がみつけたセンター内外の風景を 書いたワークシートを掲示し、今いる場所の風景に興味を持つきっかけを つくりました。
思い切り体を動かしてあそぶセンターのなかで、今回のプログラムは趣が違ったものだったかもしれません。すぐに体が動く、何か形になって見え てくるものではなく、数分後、もしくは数年後に何か影響があるのかもしれ ない、そんなプログラムだったと思います。一つのテーマをプログラム期間 中ずっと掘り下げて広げ、アウトプットしていくということも面白い試みで した。また、プログラムの提供側、参加側、それぞれのありようについても 改めて検討することができました。さらに、放送の冒頭と終わりに挿入した 楽曲は、今回のために「てんしんくん(イラストレーター、ミュージシャン)」 に制作を依頼したものです。音楽という、フジマツにとっては新しいコンテ ンツを取り入れられたこともいい経験となりました。
今回の経験をとおして、またひとつフジマツとしての広がりを感じるこ とができました。次にどんな活動ができるのか、ワクワクしつつ、もう少し 今回のプログラムについて振り返っていきたいと思います。