大人の目がふんわりと 子どもを包む環境づくりを。
ケース3
子どもたちがイキイキ遊べる環境をつくるには、場所や時間、社会状況などの問題をどう解決していったらいいのか?
生田さん  私が住んでいる地域は、どの家にどの子が住んでいるかもわかるような環境です。祭礼なんかでお菓子を配れば子どもが集まってくるし、何か問題が起きても、どこかのおじいさん、おばあさんがガガガと言えば終わっちゃう(笑)。でも、地域にそういう機能がなくなっているので、「どんぐり」のようなグループを人工的につくろうとするわけですよね。子ども会もそのひとつだと思いますが、強力に引っ張る人がいないと十分に機能しない。

深田さん  地域の自治会や老人会も子育てに手を貸してくださり始めているようですが、マンション住まいだったり、新興住宅地だったりすると、地域での組織づくりは難しいですよね。

高橋さん  私はいま子ども会の世話役をしているんですが、年間行事をこなすだけで精一杯という状況です。忙しい親御さんたちのことを考えると、行事の内容も子どもだけで参加できて危険の少ない映画会とかになってしまったり。秋にはドッヂボール大会をやるんですが、男の方に審判を頼もうと思っても、なかなか見つからない状態なんです。

生田さん  子ども会の活動は、おまかせコースが多いですよね。私は、ボランティアで小学4年生から入れる少年団をつくっているんですが、そこでも親御さんは縦割り交流としつけをしっかり期待して子どもを預けるものの、手伝ってくれる人はほとんどいません。

脇坂さん  遊ぶ場所がないと言っても、電柱を囲んで「ポコペン」や「だるまさんが転んだ」などはできますよね。で、危ないときには、大きい子が「危ないぞ」と小さい子の手を引っ張ったりして、大きい子たちからルールを学ぶような、異年齢の子ども同士の関係も必要だと思います。でも、現実は子どもの数が少なくて、子どもがいてもテレビゲームをしていたり、習いごとがあるからと帰ってしまったり。
 それと、私が子どものころは秘密基地をつくって遊びましたが、そういう親の目から逃れる場所が今はあるのかなとも思います。

高橋さん  私は上の子をボーイスカウトに入れているんですね。住環境の問題で遊ぶ場所や仲間を見つけにくいなら、時にはお金を出して、遊び場に変わるような環境を用意してあげるのもいいのではないかと思います。

小島さん  脇坂さんの話に出た秘密基地は、「どんぐり」が手入れをしている雑木林の中にもできていて、以前こんなことがありました。雑木林の掃除をしているときに、粗大ゴミと思って片づけようとしたら、子どもが「それ、僕たちがつくった秘密基地なのに」って(笑)。「バレちゃって秘密じゃなくなったから、もう1回どこかにつくって」と言ったんですけどね。

生田さん  親が見ていて安全だからやれるんですよね。

小島さん  危険かなと思うこともあるんですよ。たとえば、子どもたちが「池の横に土管があって、そこをくぐり抜けるとどこかに出る」と話してるのを耳にしたときには、大丈夫かなと思って、そっと子どものあとをついて様子を見に行ったこともあります。

深田さん  そういうふうに、大人の目がふんわりと子どもを包んでいる環境があれば、危険かどうか察知してあげられますよね。
自分にできることから始めよう。
小島さん  今の子どもは遊びを知らないので、思い切り遊びなさいと言っても無理かなと思います。ですから、「どんぐり」ではまず親が楽しめることをやっています。この間も、あるお母さんが「どうしてもやりたい」と言い出して、ゴミ袋で巨大バルーン作りをして空へ上げました。大人が楽しそうにしている姿を見れば子どもも加わってくるし、そのうち親がいないところでも友だちの輪が広がっていくと思います。

生田さん  大人が楽しむというのがミソなんだけど、お母さんたちは「遊ばせなくては」と責任感が強すぎるんじゃないですかね。自分が楽しまないで端で見てるだけだと、注意するばっかりになってしまう。

深田さん  小島さんの場合は自分が楽しいから続いてると思うんですけど、高橋さんは義務感で子ども会をやってるということはないですか。

高橋さん  そうかもしれません…今、気がつきました。私が楽しくやっていないと、ほかのお母さんも参加したくなりませんよね。

深田さん  子どもが小学校に入るとお母さんも仕事を始めたりして忙しくなるので、脇坂さんのように子どもが幼児のころは、親同士が仲間づくりをしやすい時期だと思います。それで、楽しいことがひとつでもふたつでもできればいいですよね。

脇坂さん  そうですね。遊びは喜怒哀楽の宝庫ですから、小島さんたちのように、まず大人が楽しんで子どもの遊びを盛り上げていけたらいいですね。

小島さん  テレビゲームで遊ぶ子どもが多いですが、大人がちょっと仕掛けをつくってやれば遊びが変わってくると思うんです。今日も子どもたちがお化け屋敷づくりをやっているんですが、そういうときの子どもたちの表情はイキイキしています。
 遊んでいる様子を見ていると、人と関わったり、創造したり、何をしたら危険かを考えたりなど、生きていくために必要なことをいろいろ学んでいるんだなと感じます。だから、大人は子どもにいろんな体験ができる環境をつくってあげたいですし、大きな目で見て許せるところは許して、子ども自身が考える時間を与えることが必要だと思います。
 子どもはどんな環境でも生きていけるたくましさを持っているので、まずは身近な所でちょっと勇気を出して、隣の人に話しかけてみるとか、子どもに声をかけてみるとか。自分にできることから始めれば、そこからつながりができ、何かが生まれてくるのではないでしょうか。