アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム2023 汗かくメディア受賞作品公開展示【記録】
終了しました
- 会期
2023年10月7日(土)から10月22日(日) 土・日曜日、祝日を中心に体験プログラムを実施、平日は展示となる場合があります。 - 会期中の休館日
10月10日(火)、17日(火) - 時間
10:00ー16:00(開館時間は9:00-17:00)
愛知県児童総合センターでは、子どもたちの健全な育成を支援する「遊び」に「アート」を取り入れることで、新鮮な気づきを生むあそびのプログラム開発に取り組んできました。
遊びの中で子どもたちは、緩やかなルールのもと、自由に自分を表現し、認められ、受け入れられる体験をすることや、他者との間で自分自身を確かめることを経験し、自分の感性に自信を深め、自分自身の確かな存在を持つ基盤をつくっていきます。子どもたちの成長にとって重要な要素である「遊び」に「アート」が加わることで、新しい視点や表現を提示し、子どもたちを日常の縛りから解放し、さまざまな気づきや驚きが生まれるような体験をもたらしてくれると考えています。
あそびのプログラム開発の一環として開館当初からおこなってきた公募では、これまでに多種多様なメディアを介したあそびのプログラムが提案され、子どもたちが自由に考え工夫し、柔軟に発展していく、心も身体も汗をかきながら遊ぶことのできる新しい遊びを実現してきました。今年も「汗かくメディア賞」として選出された3つの作品から、どんな遊びが実現したのか実際に体験してみてください!
せんたくびより
川合 由美
◉作品概要
大人より子どものほうが楽しいもの、面白いものには敏感で、 大人がこれで大丈夫かなと思うことでも、それ以上の楽しさを 生み出せる力があると思います。
主体は子どもたちですが、子どもたちが日常にあるものや、普段 は遊びではないものに面白がる様子を見て、大人に新たな発見が あったり、想像より多くの要素が必要ないことに気がつくような 企画をしたいと思っています。
「せんたくびより」には遊び方や決まりはありません。私が置い ておくのはたくさんの服、たくさんのハンガー、それが上下した り回ったりして空間をつくります。
子どもたちが入ることで見えてくる企画です。
◉作家感想
「せんたくびより」は今回お披露目するのが初めてで、不安も ありました。
実際にスタートして、最初は声かけをせず見守っていました。 走ってくる子どもたちに「それは作品だから触らないよ」と話し ている保護者の方もいて、いつも家で当たり前に触っているもの でも、置き方、見え方で作品になる。
作品は触らないと言う認識が大人にはあって子どもにはないと 言うことがとてもよく分かりました。
企画段階で子どもが楽しめるのはもちろん、大人もそれをみて 発見があるものが今回実践したかったことでもあるので、「日常 にあるものが遊びになる」「こんなふうに服で遊べるんですね」 など保護者の方や大人の方からお声をいただけたことはとても 良い結果になったと思いました。
子どもにフォーカスしてみても、上下させる仕掛けを使って服 の付け方を変えて罠を作る子や、持ち上げるのが楽しい子、反対 に取るのが楽しい子、様々な方法で楽しんでくれました。
そして赤ちゃんでも上に服が上がる様子を目をまん丸にして 見ていたり、幅広い年齢の子どもたちにも楽しんでもらえたこと はとても嬉しかったです。
今後も今回の展示のように、楽しんでもらえないから形をメ ジャーに変えるのではなく、「わからないけど挑戦してみよう」 そんな意識に変えられるような企画をしていきたいとこの展示を 通して改めて強く思いました。
プロフィール
2021年名古屋芸術大学スペースデザインコース卒業後、東京立川にあるPLAY! PARKのキュレーターを中心に遊具の企画制作や美術館の展覧会に合わせたワークショップの企画など、子どもたちと面白いを作っています。
Human Tools
竹村明奈
◉作品概要
Human Toolsは、身体性を伴ったツールとして、全身を使った のびのびとした動きの解放や自由な創造の手助けを目指した 4つの プロダクトです。
今回はその 1 つ、手のひらで 塗り広げるように使う手のひらクレ ヨン(hand crayon)を使用したワークショップを行いました。この hand crayonは、普段使うクレヨンとは異なり、手のひらを乗せて ツールが身体の延長線のように全身を動かして使用するクレヨン です。絵を描くことではなく塗り広げる感覚や身体の動きを楽しん でほしいため、手のひらを乗せて使う設計にしました。また、手の ひらの角度によって線の太さや色が違うため、さまざまな楽しみができます。 常設で大きなロール紙を床に敷いて、紙の上にのって自由に動きながら遊ぶことができる環境を提供しました。これによって新し い発見や大胆な動きを呼びかけること試みました。
◉作家感想
小規模な開催しか経験がなかったため、来場者数が多い愛知県 児童総合センターで長期間での開催をさせていただけて貴重な経 験となりました。今まで同様、こちらが遊び方や人数制限を設けな いシンプルな構造にこだわって開催しました。最初は大人数での 開催にこの方法でできるのか不安がありましたが、問題なく成立し よかったです。
hand crayonを雑巾がけスタイルで使ったり、足や手のひらで転 がしたりと子どもたちが自分で遊び方を見つけ出し楽しんでくれた ことに嬉しい驚きと発見がありました。そして、最初は普通のクレ ヨンのように扱っていたのが次第に大胆な動きになったり、足の裏 や膝をクレヨンまみれにして汗をかきながら全力で動き回る様子 にこのツールに込めたねらいを体現してくれていると感じました。
普段はデザイナーとして働いていますが、直接的な反応を受け取 れる機会を得て新たなエネルギーの源になりました。子どもだけで なく大人の方も遊んでいただけ、皆さんの創造性や表現力に呼び かける手助けができたことを心から喜んでいます。
プロフィール
1999年生まれ。東京出身。 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科を 2023年に卒業。
ヒカリのどっとっと
ヒカリであそぶせんせい
◉作品概要
あらぬところが光で照らされていて、不思議に思ったことがあり ませんか? 光の元を辿ってみると、窓ガラスなどに反射した太陽 の光だったりします。「ヒカリのどっとっと」は、たくさんの鏡を 使った光あそびです。天井に設置した点光源を、床に置いた複数 の鏡で反射させて模様にしたり、フィルタで色をつけたりしてあそ びます。また、ある一点の反射光は、部屋のどこからでも照らすこ とができるので、鏡の置かれた範囲の全てをあそび場にできます。 簡単なしつらえで、アタマとココロ、カラダをバランスよく使うこ とのできるあそびの提案です。
◉作家感想
2 週間の展示期間にたくさんの皆さんに「ヒカリのどっとっと」 をあそんでいただきました。作家が積極的に関与するあそびでは ありませんでしたが、週末や休日に赴くと現場でてんてこ舞いする ほどの賑わいでした。筆者は「ルールはないが原理はある」という 考え方で、あそびのデザインに取り組んでいます。「ヒカリのどっ とっと」も、光源に向けた鏡は光を反射し空間を照らすという原理 を出発点に、皆さんがどのようなあそびに発展させていくかを期 待しながら見守っていました。この中で発見した事や、展示期間に 行った工夫をいくつか報告したいと思います。
一番の発見は、鏡で光を動かすこと自体に面白さを感じていた だいた皆さんが予想外に多かったことです。よくある現象だと 思って採用した「原理」でしたが、あそびとして取り上げることで、 実感や体験を伴う面白さにつながったのでしょう。特に小さなお子 さんが、自分の動かしている鏡の効果に気づいた時に見せる喜び の表情は深く印象に残っています。一方で、鏡を並べて絵や模様を 描くといったあそびに発展させ、面白さを見出したのは、「原理」の 経験を積んだ小学生や大人の皆さんでした。こうしたあそびの跡 は、空間そのものに強い変化をもたらすことから、残された大作が 崩されていく様子が惜しい気持ちにもなりました。
皆さんがあそんでいる様子から、反射光の色やパターンの可能性 にも気付かされました。当初はカラーアクリル板を鏡に立てかけて 反射光に色を付けたり、混色ができる仕様としていましたが、鏡に はめ込む仕様に変えることで、自分の動かしている反射光が判別 しやすくできることや、顔や足跡といったパターンを鏡面に貼って おく工夫を思いつくことができました。四角い反射光ばかりの中 で「顔の描いてある鏡」があることに気づいたり、その鏡を探した りする様子を見ることは、会場の後ろで見守っている我々にとって の楽しみのひとつでした。
鏡は他にもたくさんの「原理」を持っています。また、光そのもの にも「原理」が隠れています。あそびの可能性はまだまだ拡がるこ とを確信した展示でした。
■プロフィール
「ヒカリであそぶせんせい」
札幌市立大学のデザイン学部教員3名のグループ。各々の専門は、プロダクトデザイン(細谷)、情報科学・人工知能(吉田)、ユニバーサルデザイン(小宮)と色々ですが、今回はそれぞれの専門性を持ち寄り「あそびのデザイン」を試みました。