女性が職業をもつのが当たり前の国

 北欧の国スウェーデンは、「福祉の国」であると同時に「男女平等の国」としても知られています。昨年の春、ストックホルムに3ヶ月滞在しましたが、スウェーデンでは女性が有給の仕事を持つことが当たり前であり、社会もそれを期待し、その条件を整える努力をしていること。一方、男性は、家事や育児を分担することが当たり前と考え、社会もその支援を目指していることを実感しました。実際に、スウェーデン女性の労働力率は72.4%であり、男性は77.9%(1997年)です。日本の数値は、女性が49.6%、男性が76.9%(1999年)ですから、スウェーデン女性の就業率の高さが分かると思います。


明るい遊戯室で、カーマップ(おもちゃの道路地図)の上を車を走らせながらままごと。
 

仕事と子育ての両立を支える福祉施策

 スウェーデンで女性の社会進出が進んだ要因の一つは、1960年代に高度経済成長期が訪れ、労働力需要が高まったことでした。北欧の厳しい気候も関係して、人口増が望めなかったスウェーデンでは、女性の労働力に期待しました。そして、女性が外に出て働くための福祉施策を積極的に推進したのです。今日の児童手当、有給の育児休暇(両親保険)、公的保育制度などの基盤は、この時期に確立されたものです。
 その内容を概観してみましょう。まず、児童手当は、スウェーデンに在住するすべての子ども(子どもを持つ家族)に支給されます。しかも、それは親の所得額に関係なく一律に支給され、非課税です。金額は、第1子、第2子はそれぞれ月額750クローナ(日本円で約1万円)、第3子からはさらに増額されます。
 育児休暇は、両親保険によって休暇中の所得を補償するシステムが整っています。しかも、両親が共同で子どもを育てることができ、その方法も選択することができます。つまり、(1)子どもが1年3か月になるまで両親は有給の育児休暇をとることができますが、そのうちの1ヶ月は母親、もう1ヶ月は父親のためのものとされています。そして、残りの期間は両親の間で自由に分割できることになっています。また、(2)子どもが8歳になるまでは75%労働のパートになることができます。また、いつでもフルタイムの仕事に戻ることが可能です。ここが、日本と大きく異なる点です。スウェーデンでは、パートタイムで働く女性の割合は多く、働く女性の39%を占めています。
 さらに、すべての子どもに公的な保育サービスが保障されています。公的保育サービスは、6歳未満までの乳幼児保育と、6歳から12歳までの学童保育の二部門に大別されています。そして、二つの部門にはそれぞれ3種類の施設があります。乳幼児保育の部門について言えば、(1)保育所(日本の保育所と同じ機能、8割以上の乳幼児が利用)、(2)家庭保育室(保育ママが自分の家庭で数人の子どもの保育をする)、(3)オープン保育所(育児休暇中の親子が自由に利用できる子育て支援センター)の3種類です。
 なお、スウェーデンでは、子どもの福祉と教育の連携が進んでおり、最近、大きな制度改革が行われました。以前から幼稚園と保育所は行政的に一元化されていましたが、1997年からは就学年齢が満7歳から満6歳に下げられ、1998年には、保育サービスの根拠となる規定が、社会サービス法から学校法に移されました。学校庁が、学校教育と合わせて、乳幼児保育や学童保育を管轄することになったのです。このような動きは、スウェーデンの保育サービスが、親の支援のみを目的としているのではなく、すべての子どもの発達や教育に関する権利保障を目指していることを意味しています。

昼間の家庭

 スウェーデンでは、保育所を「昼間の家庭」と呼んでいます。そして、この名称こそ、保育所に関する基本的な考え方をよく表しています。まず、クラス編成ですが、異年齢の子どもが10〜15人集まって1つのクラスをつくっています。保育者と子どもの比率は原則として1対5です。年上の子どもと年下の子どもが一緒に生活し、育ち合うのが自然という考えに基づいています。
 保育室は、1クラスが平均4部屋を使っていました。食堂兼作業室、遊戯室、絵画木工室、小遊戯室(ごっこ遊び用)が一般的です。そして、部屋には木製のテーブルや椅子が並び、窓辺は明るくキレイな色柄のカーテンで飾られていました。

自然のなかへでかけよう

 保育の内容については、家庭との協力を基盤としながらも、家庭では得られない教育的な刺激を与えていくことを目標にしていました。最も印象に残ったことは、豊かな自然との関わりです。国土の約8割が、広大な森林と、山地、湖、川、湿地、広野で占められているスウェーデンでは、誰もが自然に触れる権利をもっていると考えられており、それが「自然享受権」として法律にも謳われています。そして、その自然を愛する気持ちと、自然という大きな財産を保護し、慈しんでいくことを目指した教育が重視されていました。「自然のなかへでかけよう。自然についての学習は、自然のなかで遊んだり、体験したり、発見することである。」スウェーデンの大人たちは、自然の壮大さと人間の小ささをよく知っています。そして、未来のある子どもたちが、その心を受け継いでいくことを強く望んでいました。

           同朋大学社会福祉学部助教授 白石淑江